ポリオ(小児マヒ)を防ぐための生ワクチンの接種が原因でポリオにかかることを防ぐために、9月から不活化ワクチンが使われることが決まった。諸外国では当たり前のことがようやく実現する。遅きに失したとはいえ、歓迎すべきことだ。
ただ、いま、ちょうど接種の時期にあたっている子供を持つ親には頭が痛い問題がある。それは、生ワクチンをうつべきか、9月の不活化ワクチンを待つべきかだ。
答えは簡単ではない。まず、我が子に生ワクチンを使うことは、それでポリオにかかるリスクにさらすことになる。生ワクチンは、毒性をなくしたポリオウイルスを赤ちゃんにのませることで免疫を獲得させることだ。私は専門家ではないので正確なことはわからないが、毒性を取り戻すウイルスがあるようで、ポリオが発症してしまう。
ワクチンによるポリオが疑われる子供には予防接種法による補償があり、年間数人に適用されている。100万人生まれる子供が2回うけるポリオの予防接種で年間数人なので確率的には非常に低いが、当事者にとっては確率など関係ない。秋まで待てばこのリスクがなくなることを知りながら接種をして、ポリオになったのでは、後悔してもしきれない。
かといって、ポリオの接種をしない子供が今以上に増えることは、本当のポリオにかかるリスクを高めることになる。日本を含む西太平洋地域では、2000年にポリオの根絶宣言が出されている。しかし、インドなどでは、いまだに自然のポリオが発生している。
国際化が進み、インドを含めて新興国の経済が発展している現状を考えると、ポリオの発生国と日本の間を行き来する人は増えているはずだ。ポリオの生ワクチンは注射ではないので接種自体は子供に負担が少ないこともあり、接種率は比較的高く維持されてきた。そのため、大人は抗体を持っていることが多い。中には知らずにウイルスを運んでいる人もいるだろう。
そうしたウイルスが運悪く体内に入った子供に抗体がない確率が高まっている。感染が爆発的に広がる危険がある、と指摘する専門家もいる。その時に身を守るのはワクチンなのだ。
現在も、不活化ワクチンは、接種することができる。不活化ワクチンというのは、殺したウイルスをもとに作った製剤を注射でうつもので、インフルエンザワクチンと同様のものだ。インフルエンザワクチンに副作用があるように、副作用の心配はあるが、これでポリオそのものになる心配はない。
諸外国では当たり前に使われているワクチンなので、これまでも個人輸入で接種する親もいた。ただし、公費の接種は認められないので、自費でうたなければならない。もし、なんらかの副作用が出た場合にも、公的な補償は受けられない。
いまも、一部で個人輸入による接種は続いている。ただ、年間100万人生まれる子供に3回接種するだけの数は確保できない。秋から公費接種となるのは、その確保の目処がたったためだ。いま、全員の子供が対象にならないのは非常に残念なことだ。
このようなどうしようもない状態を作ったのは、不活化ワクチンの開発に取り組みながら、失敗を繰り返してきたポリオ研究所と、それを知りながら、ポリオ研究所に見切りをつけて、外国メーカーの製品を買うことを避けてきた厚生労働省の責任といえる。
9月までの4カ月ほどの間に、生ワクチンによるポリオの発症も、本当のポリオの発生もないことを祈るばかりだが、万が一の事態になった場合には、厚労省は厳しく責任を問われるべきだ。
杉林 痒
ジャーナリスト
編集部より:この記事は「先見創意の会」2012年4月17日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。