大阪市の「家庭教育支援条例(案)」

山口 巌

ブロゴスに橋下市長を含めて大阪市の「家庭教育支援条例(案)」に就いての記事が並んでいる。結論として、この件は二つの問題を焙りだしたと思う。


先ず第一は、「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する」という主張が正しいか否かであるが、これに就いては、橋下市長の下記Tweetが全てと思う。

発達障がいの主因を親の愛情欠如と位置付け愛情さえ注げば発達障がいを防ぐことができるというのは科学的ではないと思うという僕の考えを市議団長に伝えました。これからこの条例案について市議団内での議論が始まります。是非大阪維新の会市議団に様々なご意見をお寄せ下さい

この件に就いてはこれ以上火が燃え広がる事無く、程なく収斂する筈である。

しかしながら、しっかりとした検証が必要と思うのは、この条例案が出て来た背景である。

松永英明氏のブロゴス記事は下記の如く説明している。

「親学アドバイザー」というのは一般財団法人 親学推進協会による民間資格である。このサイト自体が「-親が変われば、子どもも変わる-」という言葉をキャッチフレーズにしており、この条例案のバックボーンとなっているようである。

なお、親学アドバイザー資格を得るには、親学基礎講座をすべて修了(全4講座で13,000円(税込み、別途テキスト代1,680円))した上で、全6講座(25,000円(税込、認定審査料5,000円を含む。別途テキスト代1,680円))が必要となる。合計で4万円を超える。

飽く迄この記事から受けた印象であるが、子供を持つ親、或いはこれから子供を持とうとする親の不安を、「発育障害」と言う具体的な事例で煽り、親学基礎講座受講に誘導している様に見受けられる。

仮に、年間10万人が受講すれば、@4万円×10万人=40億円/年の新たな利権と言う事になる。

大阪維新の会市議団と一般財団法人親学推進協会が一体如何なる関係にあるのか等、マスコミは調査、報道すべきと思う。

今一つの問題は子供の教育は誰がやるのだ?と言う根本問題である。

本来は、家庭で両親が「背骨」となる根本部分を子供にしっかり教え、これを基盤として学校で知識を教えるのが望ましいと思う。

しかしながら、現実はかなりの部分の児童が家庭での躾なしに学校にやって来て、学校、教師の重い負荷になっているのではないだろうか?

ダイヤモンドオンラインの家庭の所得が低いほど子どもの学力は低下する?文科省も調査に乗り出す“学力格差”の知られざる実態 が興味深い。

大手進学塾に勤務経験のある男性は、「両親の所得と子どもの学力はきれいに正比例する。これは業界内で“公然の事実”」と明かす。大手塾では、両親の年収や学歴、住む地域などのデータをとることも珍しくなく、そこには所得による学力格差が歴然と見て取れるという。

一般論として、経済的に余裕のある家は、それだけ子どもの教育にも金銭を投資することができる。これが、世帯年収と子どもの学力が正比例する1つの要因と考えるのは容易だろう。だが、さらに家庭内の文化的教養度、さらに家庭内の教育力が関係しているとも考えられる。たとえば同調査では、「子どもが小さいころ、絵本の読み聞かせをした」「博物館や美術館に連れて行く」「ニュースや新聞記事について子どもと話す」「子どもにいろいろな体験の機会をつくるよう意識している」などの取り組みを行なう保護者の元で育った子どもの学力は、高いという結果が出た。

逆に、低学力層に位置する子どもを持つ保護者に多く見られる行動は、「テレビのワイドショーやバラエティ番組をよく見る」「携帯電話でゲームをする」「パチンコ・競馬・競輪に行く」「カラオケに行く」だという。

言うまでもなく、子供は親を選べない。この記事を読む限り、低学歴、低収入の親を持つ子供は同様、低学歴、低収入の人生を歩む可能性が高そうである。

生活保護受給者の子供が成人して、同様、生活保護受給者となり、更にその子供がと言った「負の連鎖」が永遠に続きそうである。

そして、この連鎖を断ち切る必要があるのは明らかである。

今回の、大阪市の「家庭教育支援条例(案)」、或いは、その背景となった一般財団法人親学推進協会に批判が集まるのは当然であるが、問題の根本理由である「子供の教育に於ける親の不在」が放置されれば、近い将来同様の問題が生じる様に思う。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役