少子化の背景に日本の事情
新しいフランスの大統領にフランソワ・オランド氏が選出された。ニューヨークタイムズ紙でのポール・クルーグマン氏の論説のように「フランスの財政・経済政策が変わり、欧州統合やユーロに大きな影響を与える」とする識者やメディアが目立つ。私は新大統領の政策は現状と結局そんなに変わらないと思う。意気込みは見せるが、市場の力の前では、政治家は無力だと思うからだ。
そんなことより、日本が注目すべきは、オランド新大統領がフランス史上初の事実婚のファーストレディを迎えることになるということだ。前のサルコジ大統領は大統領任期中に離婚と結婚をした史上初の大統領だった。新大統領も事実婚というところが柔軟なフランスらしい。このフランスの柔軟性が人口減少に歯止めをかけている。
フランスは19世紀後半から140年以上をかけて人口政策を行ってきた。きっかけ普仏戦争の大敗である。大敗の原因は人口の停滞にあったとされた。その後も3度ほど出生率が2.0を下回る危機を迎えた。しかし、今や出生率で2・0を超えるほどに回復させた、その人口政策は大きな成果を上げているといえる。
フランスでは婚外子の割合が何と全体の50%を超えている。この背景には、婚外子を支える様々な支援制度がある。フランスでは別居していても共同親権なので、父親からの仕送りもある。子供が三歳までは国が月額約8万円の補助を出し、家賃の補助もある。フランスでは幼稚園から大学までの学費は基本的に無料である。所得額によって給食費も変わる。ここが日本の消費税議論で抜け落ちている“高い消費税の対価”である。「欧州の消費税は高いから日本も高くできる」という議論があるが、まず「欧州の社会保障の中身」を知るべきだ。
その中でも大きな効果があった制度が結婚制度の多様化である。特筆すべきなのはパクス(PACS)という制度。これは結婚と事実婚との中間の制度。パクスを届け出ると、カップルで税金を申告するので、租税、社会保障、相続等のメリットをカップルとして受けることができる。「結婚まではまだいかないけど、結婚の法的メリットは受けたい」というカップル向けの制度なのだ。現在「結婚3件に対し、パクス2件」の割合で申請されている。
一方、日本は仲良くなって一緒に暮らして法的支援を受けたいとなると結婚しかない。しかし、現在、離婚率は36%に達し、三組に一組は別れてしまう。もし子供がいたら、一人親で育てなければならない。それはとても厳しい生活が待っている。母子家庭の平均年収は213万円。7割の親が就業してはいるのだが、その半数が臨時・パートとなっている。シングルマザーで正社員になれる人は相当限られている。日本の“ひとり親家庭”の相対的貧困率は54.3%。OECDで最悪となっている。子供を預ける施設も限られ、行政の財政支援も手薄で、教育費も高い。
フランスでは結婚の前にパクスがある。パクスで相性を確かめながら、社会保障の支援を受けつつ、結婚の是非を判断できる。そして仮に結婚してうまくいかず、離婚してシングルマザーになっても行政の手厚い支援がある。一緒に暮らして子供を作ってみることにチャレンジしやすい制度だといえる。
それよりなによりまずわれわれ日本人が見習うべきはフランス人の恋愛能力である。“成人の10人に7人がカップルで暮らしている”という統計をどう見るべきか!日本には同種の統計はないが、これに遠く及ばないと思う。男女がまず求め合い、相手を確かめ合う。それを支える国の支援がある。まず「愛があってこその人生!」というのがフランスらしい。そしてその愛が国家の未来につながっていくように思う。