薬のネット販売を禁じた厚生労働省の規制が違法だとしてケンコーコムなどが起こしている行政訴訟で、規制を違法とした東京高裁の判決に対して、きょう国は上告を決めた。この問題は、日本の官僚機構が法の支配を無視して裁量行政を行なう典型的なケースだ。
東京高裁の判決で注目されるのは、「新薬事法36条が、店舗販売業者が行う第一類・第二類医薬品の郵便等販売を一律に禁止することまでを委任したものと認めることはできないので、法律の委任によらないで国民の権利を制限する省令の規定は国家行政組織法12条3項に違反する」として、法律で決まっていない規制を官僚が恣意的に行なうことを禁じた点だ。
厚労省が上告したのは、このような省令による裁量行政が霞ヶ関では当たり前だからである。国家公務員法の改正でも、法律では天下りを禁止したのに、政令でその抜け穴をつくるという「裏技」を使った。周波数オークションでも、電波法を改正してオークションを行なうと決めながら、700/900MHz帯を例外とする省令を決めた。
一般的には、法律の条文で曖昧に規定して省令で裁量的に規制することが多いが、薬事法の場合は第1類・第2類という分類には販売方法の規制が含まれていないのに、省令で販売規制をしたという明白な法令違反だ。いま問題の再稼働も、電力会社が原発の運転許可を求める仮処分を申請したら、国は抗弁できないだろう。
このような裁量行政を防ぐには行政訴訟で闘うしかないが、今回のように訴訟が起こされるのは珍しい。行政訴訟で民間が勝つことはめったにないからだ。民主党の掲げた「政治主導」は、こうした官僚の裁量を排して政治が責任をもって決めることだったはずだ。小宮山厚労相は、政治主導の理念を守るために上告を取り消すべきだ。