無人工場のジレンマ --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

キヤノンが大分と長崎のデジカメ工場を2015年までに無人化すると発表しました。私の記憶が正しければキヤノンはかなり以前から無人化工場に精力を注ぎ込んでいたはずで今回、その目処が立ったということでしょうか?

仮に将来、この無人化、ないしほぼ無人化が製造業で普及してくるとなると世界のビジネスの色は大きく変化してきます。

キヤノンが何故、海外の安い人件費よりも無人化工場を推し進めたかといえばいくつかのファクターが思い浮かびます。


一つは中国など発展途上にある国において人件費は必ず上昇していくものだということです。そしてそこより人件費の安いベトナムや他の東南アジアに拠点を移しても同じ問題を繰り返すことは容易に想定できます。

二つ目に海外に拠点を移せば技術流出は必ず起きます。中国や韓国が急速に経済発展したのは日本の企業をリストラされた社員たちが三顧の礼で高給待遇にて中国や韓国に再雇用され、頭脳流出しています。ソニーが不振で解雇を続ければサムスンがどんどん拾っていくのです。つまり、企業レベルでは極秘などとしているプロジェクトも「頭隠して尻隠さず」で筒抜けだということです。これが機械化なら防げます。

三つ目に国内経済へのプラスの効果です。無人稼動するとしても工場には人が必要で雇用が発生します。そこには不動産があり、建物などの資産が存在しそこから多くの経済が生まれるのです。固定資産税や各種税金が発生し、税も潤うのです。地元へのさまざまな貢献もあるでしょう。

つまり機械化すればプラス要因が多いのです。国内の雇用の観点からすれば無人化工場だろうが工場の海外移転だろうが同じことであり、ここはプラスマイナスが発生しない点が重要ではないでしょうか?

では、長い目で考えて見ましょう。仮にこの無人工場時代が10年、20年後にごく普遍的になったとしましょうか? 果たしてそれは経済全体を考えたら有効でしょうか? これには疑問符がつくかもしれません。なぜなら地球儀レベルでは雇用が減少するのですから。

北米の朝はスターバックスから始まるかもしれません。長蛇の列を裁くのはオートメーション化されたエスプレッソマシーンですが決して安くないスタバのコーヒーを毎日1、2杯飲めるのも雇用があるからなのです。人間が本来やっていた作業を機械がやるとなれば高齢化の進む日本や人口が少ない韓国はまだ生き延びる道が残されますが、中国を始め、東南アジア諸国は非常に厳しい状態が生じるでしょう。

もちろん、機械化がすぐに平準化し、いろいろな産業が突然変異することはありませんが長いスパンを考えれば危ういということも考えなくてはいけないでしょう。

この10年を「産業の更なる近代化」とすればそれまではその道のプロでないとできない様なことが素人にでも出来るような道筋が出来てきたということでしょうか? これはソフトウェアも含めた機械化の進歩の結果であり、一定のビジネスを奪いながらも一定の新規参入を生み出し、パリティ(均衡)を保っている状態かと思います。

キヤノンの新しい取り組みはまさにこの延長線上にあります。これは日本に活力を戻す有力な方法ですから進めるとして、雇用確保という問題は新しい視点に立ち真剣に取り組んでいかねばならぬ最重要課題となると思っております。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年5月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。