「マスマーケティング」以降のビジネス、なぜ「しくみ」が大事なのか―@toriaezutorisan

村井 愛子

先日「マスマーケティングの崩壊とこれからのマーケティング」という原稿について、たくさんのご意見を頂きました。非常に嬉しかったのですが、この話題に賛同してくださった方も、打ち合わせに入るとマスから一方通行で供給するコンテンツモデルをやりたいと言われたりします。しかもこの話題は、センシティブな何かに触れるらしく、“コンテンツより仕組み”という話をすると、人によっては怒り出す方もいらっしゃいます。しかしながら、啓蒙していきたいテーマなので、今回はソーシャルゲームの事例を例に、なぜ仕組みが大事なのか詳しく解説していきたいと思います。


例えばコンソールゲームの場合は、どのくらいの「難易度」のものを、どの「ジャンル」で提供するかによって「やってくれる人」の母数が変わってきます。例えば難易度1という簡単なものを、メジャージャンルであるRPGで出すと「やってくれる人」がかなりの人数存在します。しかし、難易度5という相当難しいものをサウンドノベルというマイナーなジャンルで出すとやってくれる人は少なくなります。

仕組み01

ソーシャルゲームの場合はこうなります。難易度は全員1です。そして、ジャンルはソーシャルゲームというジャンルです。だから、やってくれる人は最大値になります。

仕組み02

なぜ、こんなことが可能なのか。それは、ソーシャルゲームが以下の図のような仕組みを持っているからです。まず、全ユーザーはレベル1から入ります。そして、一定量の努力(あるいは課金)によってレベル2の階段へ進みます。ここでポイントなのは、レベル1と2の間には見えない壁があって遭遇しないようになっていることです。この仕組みにより、ソーシャルゲームは最大値で取り込んだゲームを「やってくれる人」に徐々に階段を登らせることにより、コンソールゲーム以上の人たちにゲームをプレイしてもらうことが出来るのです。(最近はチームバトルも主流なので、徐々にゲームタイトルによって差別化はされてきていますが、個人間のバトルを仕掛けたり、クエストによってゲームを進行させるメインスキームにおいてはこの仕組みが用いられています)

仕組み05

ちなみにオンラインゲームにおいては、この見えない壁がないので、超すごい人と新参者が同居してしまう結果、新参者は居づらくなります。このへんがオンラインゲームがソーシャルゲームほど利用者のすそ野を広げられなかった要因の1つだと思います。

そして、これがコンテンツ(動画、画像、テキスト)での供給だった場合はこうなります。まずは従来はこういう形でした。難易度が1で、ジャンルがファッションだった場合は見てくれる人がたくさんいますが、難易度が5でジャンルがビジネスだった場合は見てくれる人が限られます。

仕組み03

じゃあ、例えばこれが「YOUTUBE」だった場合はどうなるでしょうか?供給される動画の難易度は様々だし、ジャンルも様々です。そして、見ている人たちは全世界にいます。つまり、次の図のように全てが超たくさんになります。

仕組み04

では「YOUTUBE」というサービス主体が何をしているかというと「仕組み」づくりに注力しているのです。まずは、動画を供給してくれる人たちに対して、供給する仕組みやモチベーションを提示します。そして超大量のコンテンツをたくさんの人たちに配信する仕組みを提供しているのです。それが、レコメンドであったり、キュレーションであったりするかと思います。

仕組み06

こういう「仕組み」という考え方を抜きにして、ただ「コンテンツ」を供給したいというのは別に良いと思うのですが、それをマスに届けるつもりでやるとかなりの確率で失敗する気がします。ただ、ものすごい尖がったコンテンツは大化けする可能性があると思うので、感性に自信のある小規模なユニットとか個人クリエイターはただ単に好きな「コンテンツ」を供給すれば良いのではないかと思います。

Wiiで発売された「428 ~封鎖された渋谷で~」というサウンドノベルゲームがありますが、マイナージャンルにも関わらずシナリオの素晴らしさで「みんなのニンテンドーチャンネル」内のランキングでは約1年間に渡り最高評価のプラチナランクを獲得していました。

TechCrunchのニュースを見ていても、スタートアップベンチャーが提供するビジネスはほとんど「仕組み」のビジネスですし、キュレーションという分野においては「NAVERまとめ」が非常に好調だったり、「Flipboard」が日本語に対応するなど、動きが加速しています。ただ、日本の一定規模以上の企業になると、従来の“マスへ向けたコンテンツ配信”と“仕組みを構築するビジネス”の違いを分かってもらいづらい気がします。もっと、仕組みビジネスがたくさん出てくるといいなと思うのですが。

追記:佐々木俊尚さんにご紹介頂いたのですが、そのコメントを見て「そうそう、それを言いたかったのです」ということを端的にコメントくださったので引用させて頂きます。

情報チャネルはジャンルと難易度で情報受信者の母数を増減させてしまうけど、これが水平化したプラットフォームでは取り込める受信者数が非常に大きくなるというお話。ちょっとわかりにくいけど面白い。/なぜ「しくみ」が大事なのか

村井愛子

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