自民党議員は芸人叩きやってる暇があったら社会保障の抜本改革を今すぐやれ --- 城 繁幸

アゴラ編集部

芸人、河本準一の母親が生活保護を受給していた問題で、自民党の複数の議員が追及する構えを見せている。

はっきりいって「自民党も暇だなあ」という印象しかわかないが、本件は上手い具合に日本の社会保障の問題点を浮かび上がらせているので、簡単に整理しておこう。


・法的に違法?

確かに、民法には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」という規定が存在する。ただ、これを根拠として違反者を罰するなら、法律で扶養能力そのものをきっちり定義しないといけない。少なくとも国はその基準を作って国民に広く公開するべきだろう。

もちろん、あくまで自分の生活維持を優先すべきだから、そのための必要額を決めないといけない。自分の子供一人につき、必要な生活費はいくらか。私立校は認められるのか。車はどのクラスまでならOKか。家賃はいくらまでか。日々の生活費は家族一人頭どの程度か。そして、終身雇用や非正規雇用といった雇用形態によってどの程度の幅を認めるか。そういう諸々の基準を作った上で「それを上回る年収のある親族がいる場合は、生活保護は認められません」と公開すべきだろう。

筆者はそんな基準が作成可能だとは思わない。

だが、仮に出来たとしても、国は絶対に基準を明示できないはずだ。そんなことをすれば、その条件を満たす世帯が一斉に生活保護申請に走るから。「なかなか自分から手はあげないけれども、周囲がやるなら自分もやる」というのが美しい日本人の国民性である。

ついでにいうと、自営業者とか経営者は調整してその基準をギリギリ下回るようにするはずだから、毎度のことながらここでもサラリーマンは取られ損になるはず。

・倫理的な問題?

もっとも、ネットの本件に対する反応を見ていると、単に「儲かってるのに親に仕送りしない奴はけしからん」という声が多いようにも見える。要は倫理的な問題だということだ。だが、これもよくわからない。

そもそも社会保障制度とは、家族制度から個人を切り離して社会全体で面倒見ましょうという趣旨で作られている。家族制度が希薄化し、子供のいない人、独身者が増加したことへの対応策だ。だから、少なくとも成人に対する社会保障において「息子の年収」というしょーもないことで倫理的に云々いうのは矛盾している。

ちなみに、河本は所得税だけで1500万円ほどは払っているはずだから、(親が200万生保受給しているとすると)1500-200=1300万円ほど社会に貢献していることになる。素晴らしい!

ちなみに年収500万円の平均サラリーマンは所得税20万円程度しか払ってないから20-200=-180万円。じゃあ「親が生保貰っている普通のサラリーマンはけしからん!」かというと、もちろんそんなことはない。

高額所得者からはガッツリとって、そうじゃない人からは相応に徴収する。でも、困った実家には等しいサービスを提供するというのが、社会保障制度である。

・そもそも、何が問題なのか

本来、個人に切り離して運用すべきところに、前時代的な「親族の年収」という要素が混じってしまっていることが問題の本質だ。抜本的な解決策としては、親族と完全に切り離して、ついでに年金と生活保護を一本化するくらいでいいのではないか。(もう一歩踏み込んでBIでも構わない)

余談だが、国はあえて「親族による扶養」という基準の曖昧な要素を残しているというのが筆者の意見だ。

基準があいまいなら、空気を読んで手を挙げないのが日本人の国民性。仮に手を挙げてきても「まずは親族を頼って下さい」という具合に、シカトする言い訳に使われているのではないか。

これから先、高齢化が一層進む中で、現在の曖昧なシステムのままでは、親族はもちろん国にも頼れないという扶養難民が大量に生み出されるだろう。

そういう本質に目を向けず、芸人一人を吊るしあげて「僕たち私たち、一生懸命仕事してます!」って言ってる自民党のセンセイがたは、つくづく時間を持て余しておられるようだ。

仮に河本に生活保護費5年分くらいを返納させたとしても、1千万程度。2人のヒマ議員の年収は歳費+手当で約7000万円×2=1億4千万円。

芸人叩きSMショーはもういいから、高給取りのセンセイがたはキッチリ給料分の仕事をしていただきたい。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年5月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。