証券会社のアナリストは廃業して有料メルマガをせよ

藤沢 数希

先週、クレジット・デリバティブの自己勘定取引で20億ドルの損失を出したJPモルガンだが、その損失額はさらに膨らみ、50億ドルほどに達したようだ。巨大なポジションを損切りしなければいけない、ということがバレれば、他のトレーダーにカモにされるに決まっているのだ。そして、実際にカモられた。


デリバティブの一つひとつの取り引きは必ずゼロサム・ゲームになっているから、JPモルガンの損失は他の銀行の利益である。今回はたったの4000億円程度の損失であったから、問題はなかったが、仮にもっと大きな損失でJPモルガンが潰れそうになると、デリバティブ取り引きの相手で、JPモルガンから金を受け取る立場の他の銀行の利益もいっしょになくなってしまい、連鎖倒産しかねない。だからJPモルガンを救済しようということになるのである。これが、どう転んでも業界全体の利益は守られるという、悪名高いウォール・ストリートのビジネス・モデルだ。

現在、このような自己勘定取引を規制しようというボルカー・ルールの導入の最終段階に入っているが、JPモルガンの今回の損失劇は、その必要性を再確認することになった。筆者自身は、自己勘定取引を”Too big to fail”な銀行がやる理由は何もなく、富裕層から資金を集めたヘッジファンドが自己責任でやるべきものだと考えている。だから、銀行の自己勘定取引のチームは、可及的速やかにスピンオフさせて、独立したヘッジファンドにするべきだ。

ところで、筆者が常々疑問に思っていることは自己勘定取引だけではない。証券会社の株式調査部である。有名なアナリストがレーティングを変えれば、株価が大きく動く。自明だが、株式調査部のアナリストが、例えばレーティング変更などの情報を、先に自社の自己売買のトレーダーに教えれば、簡単にボロ儲けできる。これはリサーチ・フロントランニングといい、大手証券会社ではどこもコンプライアンスが許さない行為であるが、そういうことが決して行われてない、と誰もが信じているかといえば、そうでもなかろう。

また、証券会社の投資銀行部門は、事業会社に様々な金融サービスを提供しており、ここでも、アナリストが顧客でもある事業会社に対するレポートを客観的に書けるのか、という批判がある。もちろん、証券会社内では、投資銀行部門と株式調査部は、情報ウォールで完全に隔てられているから、客観的なレポートが書ける、というのが証券会社の建前ではあるのだが。

こんな利益相反の巣窟のような株式調査部のアナリストが、なぜ証券会社にいるのか疑問だ。だから、筆者は証券会社が株式調査部を持つことを規制するべきだと考えている。これらは今すぐにでも閉鎖するべきだろう。それで、アナリストは一時的に職を失うかもしれないが、そこで筆者には妙案がある。

実は、筆者は最近、有料メルマガをはじめたのだが、これはなかなか面白いビジネス・モデルだということが分かってきた。投資顧問業に関する法規制や、筆者自身の雇用契約上の問題があるので、投資情報というよりは、もっぱら人生を楽しむためのエッセイの執筆をしているのだが、面白いコンテンツを提供できる作者なら、十分な収益を確保できる。つまり、証券会社の株式調査部が閉鎖されても、アナリストは有料メルマガを書けばいいのである。

本当にいい分析を提供していたアナリストなら、十分な読者数を確保できるに違いない。仮に、そのメルマガの売上が、ウォール・ストリートの給料よりもずっと低いものになったとしたならば、それがそのアナリストの本来の実力であった、ということであろう。

参考資料
JPモルガン、巨額損失は50億ドルに増加か―ポジション解消が難航、WSJ、2012年5月21日
ケタが上がった金融機関のマネーゲーム、アゴラ、2012年05月16日
社会主義化する国際金融の世界、アゴラ、2012年01月12日