朝日新聞の伝える所では、貿易収支、5,203億円赤字 4月の過去最大上回るとの事である。
財務省が23日に発表した4月の貿易統計(速報)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5203億円の赤字だった。月間の貿易赤字は2カ月連続。赤字額は、4月としては、第2次石油危機の影響があった1980年4月の5083億円を上回って過去最大となった。
前期の移転収支黒字額は12兆円弱と聞いている。従って、直ぐに「経常収支」の赤字に至る様な事は流石にないと楽観している。しかしながら、仮に貿易赤字が毎月10%づつ増加すれば、通年での赤字額は10兆円弱となり、「経常収支」は今季はぎりぎりで黒字を確保するも、来期は確実に赤字となる。
仮に、「経常収支」が赤字となれば、既に重篤な財政赤字と併せ、日本の経済破綻がそれこそ悪夢から現実のものになりかねない。問題は、日本が何故かかる事態に陥ってしまったかである。これを理解する為には、財務省4月貿易統計を精査するしかない。
先ず目につくのは、28カ月連続で前年同月を上回るコンスタントな増加を継続する輸入に対し、3.11の震災でサプライチェーンが寸断され、大きく落ち込んだ輸出が充分に回復していない点である(2年前の10年4月と比べると5.5%減)。
米国向けは、輸出が前年同月比42.9%伸び、9,589億円と好調である。何と言っても自動車の貢献が大きい。輸入は4.4%の増加で5,331億円。差引4,258億円の貿易黒字を稼いでいる。米国は言うまでもなく日米同盟のパートナーであり、日本の安全保障の要な訳であるが、通商上も最重要国である事が判る。
中国向けは、輸出が7.1%減少し9,954億円。一方、輸入は7.5%増加して1兆2,696億円で差引2,742億円の赤字である。問題は、今後赤字幅が縮小して以前の様な日本の黒字体質に回帰するのか、或いは、赤字幅が拡大するかであるが、どうも後者の様である。
日本は中国に対し、生産設備や高度技術を必要とするバイタルパーツを輸出している訳であるが、何分、5月中国製造業PMI速報値は低下、7カ月連続で50下回るとの事である。これでは、日本からの輸出は減る事はあっても、決して増えない。
アジア向けは、輸出が2.6%減少し3兆229億円。一方、輸入は1.8%増加して2兆5,512億円で差引4,717億円の黒字である。しかしながら、対中貿易と同じ様な構造なので、今後輸出は減少し、輸入は増加、結果黒字幅は縮小すると推測する。
一方、輸入に関して顕著なのは45.7%増加した液化天然ガスと27.1%増加の原油である。
さて、それではどうやって貿易赤字を削減するかである。
短期的には、停止中の「原発」を再稼働させ、液化天然ガスと原油輸入量を震災前の水準に戻す事である。
中長期的には、電力政策と産業政策の見直しを提案したい。
先ず、電力政策であるが、高価な液化天然ガスを気前良く輸入するのは見直すべきと思う。例えば、関西であれば、瀬戸内海の無人島に廉価な石炭を使用する発電所を建設しては如何であろうか? 石炭火力に於ける、日本の脱硫、脱硝、集塵技術は世界一と聞いている。無人島であれば環境問題に頭を痛める必要がないのではと考える。
今一方の産業政策に就いては、家電の様な市場がレッドオーシャン化した消費財部門と、今尚競争力を維持する資本財・高度部品・素材分野をドライに仕訳すべきと思う。
露骨に言えば、日本では既に飯が食えなくなった家電の様な産業はさっさと、中国や中国に雁行するベトナム、ミャンマーと言った新興産業国に出て貰う。そして、従来の海外生産・収益還流モデルによりサービス・所得収支での貢献を期待する。
一方、資本財・高度部品・素材分野では国内生産・輸出モデルを維持、拡大して貿易収支改善への貢献を期待する。又、こういった優良企業が日本に留まる様に「法人税」を現行の40%から20%に減税する等の優遇措置は必要と思う。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役