自分ならどうするか。そう常に自問自答を繰り返すことは、実に効果的なイメージトレーニングになります。
IT業界に身を置く自分たちとすれば、若き億万長者であるマーク・ザッカーバーグに成り代わることができたとき、これからどうするかを考えることは意味のあることだと思います。もちろん、長年の恋人を妻に迎えたあとの家事分担について考える必要もないし、天文学的な数字に膨れ上がった財産の使い道を夢想するのは下世話というものです。GoogleやAppleと天下を三分するにいたったFacebookを、どう指揮していくかを徹底的に考える、ということです。
戦略というものは、状況によって水のように変化するべきものですが、それでも数年間の方向性を定める時の指針はある程度コンクリートに考える必要があります。僕がザッカーバーグだとして、Facebookの目標はネットユーザーのすべてをFacebookユーザーにすることであり、それによってリアル社会の人間関係とアクティビティをデジタル化することを目指します。Googleは世界中のデータやニュースなどの事象をデジタル化してきましたが、人間関係という非常にアナログで有機的な情報のデジタル化についてはFacebookに遅れをとったことをいまでは自覚しており、Google+で追撃しようとしています。だから僕は彼らを仮想敵として対策を講じなくてはなりません。
翻ってFacebookの弱点を考えると、やはりモバイルインターネットからの収入がほとんどないということにつきます。実はこれはGoogleも似たようなもので、インストール型のネイティブアプリ全盛の、PCでならばWeb2.0以前の古いコンピューティング環境であるスマートフォン上では、思うように収益をあげられません。効果的な広告手法がまだ発見されていないからです。GoogleはAndroidを使ってモバイルアプリの販売という、iPhoneが確立したビジネスモデルを真似ることができますが、ハードウェアもモバイルOSもブラウザーも持たないFacebookにはその真似は早々できません。従って、僕ならば潤沢な資金を使って当面はライバルに先駆けて有力なモバイルアプリ開発会社やサービスを買収し飼い殺しにするか取り込むか、自社サービスに組み込むかして、潜在的ライバルを無力化しつつ、自社のアプリのブラッシュアップに努めます。同時にPC同様にいつかはネイティブアプリからWebアプリに主流が移ることを見越してオリジナルブラウザーを開発します。HTML5が普及し、モバイルWebがPCなみに発展すれば、Facebookの膨大なユーザー数とソーシャルグラフによる力技が生きてくるからです。
もう一つ、Facebookが誰よりも先に実現しなければならないのはO2O、つまりWebで発生したソーシャルトラフィックをリアル店舗などに送り込むという難題に挑戦することです。Grouponがオンラインクーポンの先払い販売という手法でO2Oは一瞬実現しかけましたが、Grouponには一過性のトラフィックを作ることしかできず、失速しています。出会い系サイトのように、一見さんの出会いを演出するのとは違って、Facebookは現実の、長期的な人間関係をWebに持ち込むことに成功した会社です。だからソーシャルコマースにとどまらず、O2Oを最大の収益源にする可能性をもっとも高く持っていると思うのです。となると、僕ならばオンライン小規模決済サービスのスクエアの買収なども視野にいれます。
さらに、もう少し長期的に考えるのであれば、トヨタやGM、BMWなどの自動車メーカーや、サムスンなどの家電メーカーと、ソーシャルカーやソーシャル家電の研究にも資金を投じたいところです。ソーシャルホームも良いですね。例えば車内や屋内にいるときに、自分と友人だけならば、自分と友人の趣味嗜好に合わせた音楽や室温を調整したり、車ならば走りごこちを具現化するようなものです。ソーシャルグラフは単に友人同士の関係性だけでなく、さまざまなデータコントロールのキーとなる可能性を秘めています。
さて。
今日のところはこれくらいにしておこうと思いますが、彼らの知名度と資金があれば、思い切った戦略がいくらでもとれます。楽しい妄想ですが、そうした動きがもし現実になったとしたら、実際の自分たちはどうするか、そういう対策を今度は考えねばなりませんね。
– 小川浩