最新のギリシア国民への世論調査は、緊縮財政反対を掲げて第二党へ躍進したギリシア急進左派連合(SYRIZA)と、緊縮財政維持を訴える第一党の新民主主義党(ND)とで世論が拮抗しており、国民の緊縮財政に反対する声は依然として衰えていないことを示している。
ただ一方で、「ユーロ圏に残留するべきか?」という問いに対しては、85%が「残留するべき」と回答しており、至極当然であるが、ギリシア国民は、短期的に更なる経済不況へと繋がる緊縮財政も嫌だし、自国経済や資産価値が土台から崩壊してしまうユーロ脱退も嫌だというのが本音だ。
世界の金融市場はこのギリシアの動向に現在最も注目している。ただ、残念ながら注目しているのはギリシア経済そのものの行く末ではなく、ギリシアがユーロを離脱する可能性が、ユーロという通貨の存在価値の再定義を迫っているという事実にある。ユーロが抱える矛盾は、その発足以来、実は誰もが胸の内に秘めていたものである。
つまり、「経済の弱い国と、強い国の通貨が、なぜ同じ価値なのか?」というシンプルな疑問である。リーマンショック後の不況と、一律でない参加国の経済回復が、それを決定的に顕在化させてしまった。
6月17日のギリシアでの再選挙の後のシナリオはいくつかの経路が想定される。もちろん、新内閣がどの党が主体となっているかで、多少シナリオは変わってくるが、ギリシアを軸に今後のユーロ圏がどのような道を歩んで行く可能性があるのか考えてみたい。
まず、私の考える最悪シナリオは、次のようなものだ。ギリシアで緊縮財政反対内閣の成立→約束した緊縮財政予算の不履行→ユーロ諸国からの支援停止→ギリシアが支払い不能に陥る→お互いの妥協案の提示も決裂→ギリシアがユーロ離脱へ、である。
しかしこれが起きる可能性は低いと考えられる。何故なら前述のようにギリシア国民もユーロ離脱は望んでいないため、結局最終的には、離脱するくらいなら緊縮財政を約束通りに履行した方がましという結論へ行き着くからだ。
ただ問題は、この過程が進んで行く中で、金融市場は混乱するリスクがあるということである。ギリシアのユーロ離脱の可能性が高まっていく過程で、ユーロ諸国の国債、銀行システム、政治に対する国民の不安感が急速に高まり、資本市場はこのテールリスクを織り込みに行く可能性がある。ギリシアの離脱はアイルランドやポルトガルの離脱を誘発する可能性が高く、更には、通貨同盟の本格的な再定義などの予測できないリスクが急速に膨れ上がる。
私自身は、本質的な問題はユーロ圏そのもののサスティナビリティ(永続的な成長性)が担保されていないということにあるため、金融ショックが起きた後になるかも知れないが、最終的には、ユーロ圏の落ち着きどころは、通貨だけの統合ではなく、ユーロ圏諸国の財政統合か政治統合、或いはその両方、ECBの権限拡大、などが現実的に議論されることになると考えている。
「財政と政治の両方を統合」することは「欧州ルネッサンス」として以前から議論されていることであるが、ユーロ圏全体のリバランスを推し進めるだけの政治的なリーダーシップを持つ主体がいないため(或いはドイツが将来可能かもしれないが)、現時点では非現実的だろう。
「財政は別々、政治は統合」というのは、あり得ないと思われるかも知れないが、独立王国の集合体であるイタリアの状態を、ユーロ圏で行うと考えれば、あり得なくもない。
「財政は統合、政治は別々」というのは、最も可能性の高い方向性であるだろう。これは最終的にはECB(欧州中央銀行)が最後の貸し手となり、更には公的部門の債券購入や、銀行へ資本注入を行うことが出来る状態にすれば、欧州懸念は終息する。ただし各国の憲法改正が必要なため、ある程度の時間を要する。
「財政と政治が別々のまま」は現状のままであり、何も変わらない。結局は、第二のギリシアが将来再び出てくるだけであり、ユーロの信頼の回復には繋がらない。
今回のギリシア問題の落ち着きどころは、ギリシアが緊縮財政を受け入れ、ユーロ圏残留ということになるかも知れない。ただ、もっと注視すべきは、ギリシアとの折衝から、どのタイミングでユーロ圏の枠組み変更の議論へ移行するのかということである。金融市場は一旦この不確実性を織り込みネガティブに反応するかも知れないが、欧州の信用不安を終わらせるには、抜本的なユーロ圏の再定義が必要とされる。
小松原 周(あまね)
アナリスト/ファンドマネージャー
*ギリシア問題は筆者ブログ「仙人の祈りの時間」で、順次更新していく予定です。