シャープに期待したい事 --- 岩田 智司

アゴラ編集部

前回の投稿についてご意見頂戴しました。ありがとうございます。アップルも購入者・消費者としての顧客を完全に無視している訳ではないと、私ももちろんそう思います。ただ、圧倒的な価値観を生み出す創造の始まりは、一般消費者ではなく個人(投稿内容上ですとジョブスさん)であって、商品を最終手にする出口からは新しい価値は生まれないのでは? として考えてみました。

今回は、価値創造を繰り返す事が命題であろう家電メーカーの経営者と生み出される物の理想について投稿させて頂きます。

先週まで日経新聞にて連載となっておりました記事「シャープの決断(迫真)」について、ご覧になった方も多いかと思います。この連載が社員向けなのか、株主及び銀行向け宣伝なのかは横に置いておいて、素直に面白い記事だと感じています。


経営者と一括りに言っても、事業内容・組織形態ももちろんですが、現状の立ち位置で振る舞い方がより大きくかわってくるものかと関心しました。

特に町田さんの項では、思わず嬉しくなりました。

「事業っちゅうのは、腹をすかしたもんが目の色を変えてやらんことには成功せん」

町田さんは経営者というより「商売人」との言い方が合うように思います。この方は会社を残す事と、利益に集中されてる方ではないかなぁと。市場を理解し、技術を目的化せず手段として見極めている印象です。

技術の見極めというなら、前社長の片山さんも素晴らしい経営者だと思います。技術部門出身と聞いておりますのでそれが期待感とあわさっていると思うのですが、町田さんよりかは組織的経営者に見えます。社内の得意を理解・判断し、それを市場に落としこむ「采配者」としては1級だと思う。ベクトルが組織内から外へ向かうタイプでしょうか。

シャープは組織体としても素晴らしく「緊急開発プロジェクト」として、事業部や研究所を横断して技術者が集められ、開発商品の市場導入も早いと聞いています。鴻海(ホンハイ)との提携に至るまで、誰もが舵取りをミスったようにはまったく思わず、実際ミスリードもなかったように思えます。

なのに、どうして赤字が増え、この現状になってしまったのか。私は、一部品技術に特化しすぎたからではないかと思う。主が液晶パネルという、一部分。もちろん、部品会社として特化するのも経営判断ですが、今のシャープの問題は、技術力はまったく問題ないにも関わらず、それを搭載した商品としてパッケージングした自社商品を市場に投入できていないからこうなってしまったと感じる。「価値創造主」である商品の不在、会社の「下請化」とでもいえるでしょうか。

一昔前、シャープにはものすごいイノベーションがありました。「液晶ビューカム」、ご存知でしょうか。

私が小さい頃、家庭にビデオカメラが普及し始めた時期で、今ではあたり前ですが撮ったものがその場で見れるとの代物で、それを持ったお父さん達は自慢気で、周りで見ている皆もなんだか楽しかった。ソニー派のお父さん達は、早くソニーからも出してほしい!と思ったくらいの代物です。

大変失礼ですが、液晶ビューカムが勢いを持つまでのシャープはソニー、松下(パナソニック)と比べると一流家電メーカとのイメージはなく、どちらかというと2番手、3番手の家電メーカと記憶しています。液晶ビューカムとそれに続く液晶テレビ・アクオスブランドで上位家電メーカの仲間入りになれたように思います。

当時からシャープには革新的技術は社内にずっとあったと思う。しかし、それらは商品化しないと一般消費者には見えにくい。部分提供ではなく、そこをパッケージングして上手くいったのが、液晶ビューカムであり液晶アクオスであったと思う。

今のシャープにはもう、その様な商品は見当たらない。プラズマクラスター技術がそれである様に目指したかもしれませんが、あれはただの「使い回し技術」に見えます。その技術が搭載された商品自体に目新しさは何もない。

勝手ながら期待感でいうと、日の丸連合よりシャープに気持ちが傾いています。しばらくは、町田さん的「商売人」感性で乗りきり、いつか余計なしがらみ等から離れ、素晴らしい「采配者」の元でまた、あらたな価値観の発見を見せてくれる事を楽しみに待ちたいと思います。

岩田 智司
神戸大学 専門職大学院 聴講生