「野菜ホールディングス」への商号変更議案はなぜ上程されないのか? --- 山口 利昭

アゴラ編集部

当ブログへお越しの皆様であれば既にご承知のとおり、今年6月27日に予定されている野村ホールディングスの定時株主総会の株主提案が話題になっております。ひょっとすると関西電力に対する大阪市の株主提案よりも話題性という点では上回っているのではないか、とすら思えてきました(日本のマスコミはわざと取り上げないようですが……(^^; )。今日のエントリーは、あまり深くお考えにならず、気軽にお読みいただければ結構でございます。


野村ホールディングス株式会社第108回定時株主総会から(株主でもないのに勝手に)招集通知の中身を見ておりますと、本年の総会上程議案に関する案内がございまして、その第2号議案から第19号議案まで合計18本の株主提案が決議事項とされています。当該少数株主の方は、合計100本の定款変更議案を提案されたそうですが、82本は不適当とされたそうで、そのうちの一つに「野村ホールディングスの商号を野菜ホールディングスなる商号に変更せよ」と提案がなされた、とのこと。商号変更登記の手続きには定款変更に関する特別決議がなされた旨の記載のある株主総会議事録の添付を必要としますので、もちろん総会決議を必要とします。しかし、この商号変更に関する定款一部変更議案は上程されておりません。ではなぜ、野村ホールディングス社は「野菜ホールディングスへの変更は不適切」だとして上程しなかったのでしょうか。

これは私の勝手な推測ですが、会社法8条1項は、「何人も不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない」としています。そしてこの規定に反する行為を行った者は100万円以下の過料に処せられます(会社法978条3号)ただ、同社は持株会社ですし、ホールディングスなる文字も含まれているわけですから、「やさい」という文字が含まれていても、まさか似たような青果事業を主たる目的とした会社とは誤認されないのではないかとも思います。

しかし野村ホールディングス社は、平成22年より農業ビジネスに特化した新会社を設立しており、子会社を通じてトマト栽培も開始して、トマト販売を始めておられるようです。その新会社の名前は(おそらく商号も同様かと)「野村アグリプランニング&アドバイザリー」で、野村ホールディグス社が100パーセント出資、従業員も(設立当初より)10名程度いらっしゃるとのこと(2010年当時の新聞報道より)。ということは、もし野村ホールディングス社が「野菜ホールディングス」と商号を変更しますと、この野村の100%子会社(及び孫会社)と持株会社との誤認混同のおそれが具体化する、ということになります。これは上記会社法8条1項の強行規定に反するものとなるため、「不適切な提案」として上程議案からはずした、というところではないでしょうか。

しかし、こういった背景から一人の個人株主が「野菜ホールディングス」に商号変更せよ、と野村ホールディングス社に要望したとすれば、これはなかなか「社運を賭けて意識改革をせよ」との切実な株主の願いがこもった提案であり、まんざら捨てたものではないと感じました。そういえば数年前、野村ホールディングスは、同社CFOに医療機関のM&Aに特化した子会社のトップの女性を抜擢しました。わずか20名程度の従業員を率いて業績を上げた方をCFOに据えるというのは、まさに意識改革です。あの改革の機運はどうなっているのでしょうか?(ここまで書いてきて、真剣に書いているのかどうか、自分でもよくわからなくなってまいりました……)

また、取締役の呼称を「クリスタル役」にせよ、というのも、野村不動産の連結子会社化と関係があるのでしょうね。けっこう、意味が深いような気も致します。

いっぽう話題になっております「社内はすべて和式便器にせよ」議案ですが、これは野村ホールディングスを支えるステークホルダーすべての生理欲求に関する過度の介入であり、人権に関わる問題ではないかと。なかには肛門の疾病を抱えているステークホルダーもいらっしゃるわけで、(少なくとも私は)定款に記載することは公序良俗違反に該当するものと考えます。これがなぜ上程議案として含まれているのか、少し疑問に感じるところでございます。しかし、前日までの書面投票の集計のみとはいえ、この2号議案から19号議案までの賛否結果が開示されることを思うと、なんとなくやりきれない気持ちになるのは私だけでしょうか……。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年6月6日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。