小沢一郎 ― 日本の「ギリシャ化」促進には欠かせない逸材!

北村 隆司

明日は、いよいよ「消費増税法案」の採決日である。

民主党の掲げた政権公約は、鳩山内閣の時から破綻しており、今更「マニフェスト」違反などと言うのは権力争いの言いがかりに過ぎない。議論するなら、日本のギリシャ化阻止の為に、この時期の増税が必要であるか否かに絞るべきである。


欧州の経済危機が世界を揺るがせる様になって以来、比較の対象にもならない遠い国の様に思えたギリシャが、急に身近な国になってきた。

ギリシャが、民主主義の故郷であるのに対し、日本は先進国で最も遅く民主主義を導入した国であり、西欧で最も規律が守られないと言う評判のギリシャに対し規律が厳しすぎて自由な発想力に欠ける日本。

これほど異なる両国も、比べてみると意外な共通性が見られる。

公務員の数がやたらと多く、脱税が当たり前のギリシャ。数はともかく無駄だらけで、権力を独占する日本の官僚と脱税を悪としながら、GDP当たりの税収が先進国で最も低い抜け穴天国の日本。

見かけは異なるが、結果として「官僚天国」「脱税天国」と言う点では、両国はそっくりさんである。
それだけではない、世襲政治、与野党幹部の離合集散による権力闘争の繰り返し、肝心な事は何も決められない政治等も瓜二つである。

そのギリシャで、20日になって、やっと新民主主義党(ND)のサマラス党首が新首相に決まり、いよいよEU主導の厳しい措置の実施を担う事になった。

日経の記事では「新民主主義党(ND)から26歳で初めて議会議員に選ばれ、30代で財務相や外相を歴任。その後、マケドニアを巡る論争を機に離党し、NDより右よりの小政党『政治の春』を立ち上げた。新党は数年で議席を失い、NDに復党。NDが総選挙で敗れた2009年に党首となったが、党首選の敗者がサマラス氏への不満から離党する騒ぎが起きた。こうした政治遍歴から、国内外では計算高く『ご都合主義』のイメージがつきまとう。今春のギリシャ追加支援と引き換えの緊縮策作りでは、与党の立場にも拘らず国際社会に誓約書を出し渋った。緊縮策を嫌う国民の歓心を買うためのポーズと見られ、支援する側のひんしゅくを買った」とその横顔を紹介していたが、米国のマスコミも同じ様な印象を報道している。

ここで見えるサマラス氏の横顔は、小沢氏の横顔と重なって見えてくる。

自力更生力の極端に弱い日本の国民性は、苦しい事は他人の所為にするか、後回しにする癖があり、外圧に弱いのも特徴である。

だとすれば一層の事、日本のギリシャ化を促進して、外圧による「日本の覚醒」を早めた方が、日本の為になるのではないかと思うようになった。

小沢氏は非常にセンスの良い政治家で、公務員制度改革や記者クラブ問題、官僚と記者クラブの八百長体質打破などでは、斬新な手法を編み出している。一方、自分の気に入らない事は決めさせない能力でも突出している。

「国会に居ても党政策調査会の会議に出ても有権者には評価されない。」と語って憚らず、「公約は膏薬(こうやく)。張り替えれば効き目がでる」と言うのが口癖で、今回のマニフェストへの執着も票欲しさの便法であろう。

ギリシャの政治家が、票にならない政策は全て後回しにして今日を招いた事を見ると、小沢氏は、日本のギリシャ化促進には欠くことの出来ない逸材である。

かつて、消費税の10%への引き上げをぶち上げたのも小沢氏なら、マニフェストで揮発油税の暫定税率廃止を約束しながら、真っ先に鳩山首相にその中止を要求したのも小沢氏であった。

世界的な不況や超円高の影響をまともに受けた日本は、結果的にリーマンショック以降に経済が最も衰えた国で「高速道路無料化」「子ども手当」「戸別所得補償制度」などのマニフェストで約束したばら撒き政策を実施出来る環境ではない。

福島原発事故で「原子力発電を恒久的エネルギーとして積極推進する」と言うマニフェストに掲げられた政策の実行も当面不可能である。だからと言って、これ等のマニフェスト違反を巡って、小沢氏が離党すると言う話が聞こえないのも不思議である。

この様に、小沢氏の御都合主義振りは、サマラス首相以上で、その才能が日本のギリシャ化の促進には欠かせないのである。

日本には「備えあれば憂いなし」「転ばぬ前の杖」と言う言葉を座右の銘とする人は多いが、実行した人の話は余り聞かない。

口に苦い「良薬」の嫌いな日本の国民性を考えると、小沢氏の手で徹底的な「ばら撒き政策」を実施して貰い、日本のギリシャ化を早め、外圧による「国の仕組み」を変えて貰うのが、手っ取り早い日本の再興策ではなかろうか。

小沢氏への期待は大きい。

北村 隆司