朝日新聞が伝える所では、エジプト大統領にムルシ氏当選 初のイスラム主義大統領との事である。
ジャスミン革命は情報伝達にフェイスブックが使用された事もあり、西側諸国に鳴り物入りで支持された経緯もあるが、これにて一旦の終結であろう。勿論、結果は失敗である。
エジプト大統領選の選挙管理委員会は24日、穏健派イスラム団体、ムスリム同胞団系列の自由公正党党首ムハンマド・ムルシ氏(60)の当選を発表した。同国で自由な大統領選が行われ、文民が当選するのは初めて。イスラム主義の大統領も初となる。軍部は民政移管前に立法権などを握り直すなど、自らの権限を強化している。新憲法起草などを巡り、同胞団などとの主導権争いが続きそうだ。
そもそも、何故多くの若者が血を流し続けたかである。「政治の民主化」と「経済の近代化」実現の為では無かったのか? 今少し具体的に言えば、統治能力を持つ唯一の機関である「軍」は新たな政権が民主的に選ばれる迄暫定的に治安の維持に努め、新たな政権の誕生を以て権力を平和的に移行すると言う事であったと記憶している。
そして、我々は「軍」やムスリム同胞団の如き「宗教勢力」ではなく、西側の価値観に近い「民主的な政権」への権力の移行を期待した。今となっては、私の昨年2月のアゴラ記事、エジプト、ムバラク大統領辞任と今後を読み返すと、期待が大きかっただけに、虚しさも一際である。
しかしながら、先ず期待した「民主的な政権」がすっぽりと抜け落ちてしまった。後は、既得権益者で体制の継承を望む「軍」を代表する元首相アフマド・シャフィーク氏とムスリム同胞団系列ムハンマド・ムルシ氏の一騎打ちとなり、結果ムハンマド・ムルシ氏の勝利となった。
そもそも、今回の大統領選挙は「軍」vs「イスラム」と言う、実際に血を流した青年達の願いとは真逆の展開であった。更に悪い事に「軍」からムルシ氏への権力の移行もそう簡単には行かぬ様である。
軍最高評議会は月末までに民政移管するとしている。一方で評議会は決選投票直前、自由公正党が半数近くを占めていた人民議会に解散を命じ、17日の投票終了直後には暫定憲法を修正して新議会発足までの立法権を握った。議会の再選挙は新憲法の起草後まで行われない予定だ。 また、憲兵(軍事警察)と軍情報部に市民を逮捕する権限を与え、治安権限も手にした。
「軍」は司法クーデターとでも言うべきものを企て、ムルシ氏の当選に備え権力を実質掌中に収めてしまったのである。これでは例えムルシ氏が正式に大統領に就任したとしても、所詮、「飾り物」に過ぎない。所謂傀儡である。
野口先生ブログが参照する諷刺漫画が実に判り易い。一位が「軍」、二位がムルシ氏そして三位がシャフィーク氏と言いたいのであろう。言うまでもなく、問題は「軍」は選挙に依って選ばれておらず、これが権力の座に居座る事は「クーデター」そのものと言う事である。
今後はムスリム同胞団の支援を受けたムルシ新大統領と「軍」の血生臭い権力闘争が勃発する筈である。仮に、「軍」が勝利すれば何の事は無いムバラク前大統領時代に逆戻りと言う事である。
一方、ムルシ新大統領が勝利すれば、高い可能性でイランの如き厳格な宗教国家になると思う。勿論、政治の民主化や経済の近代化の希望は失われる。
これが、「ジャスミン革命」、「アラブの春」の結果であると断言するのは些か拙速かも知れないが、大きく間違っているとは思わない。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役