いよいよ今週は3月決算会社の定時株主総会のピークを迎えます。私が社外監査役を務める会社も、6月27日が開催日でありまして、(以前お知らせしましたように)総会終了時をもって8年間の監査役任務を終了いたします。ということで、やはり今週は「総会ネタ」が中心ののエントリーとなりますが、本日は「野菜ホールディングス」のようなオモシロネタではなく、法律実務的なまじめなネタをとりあげたいと思います。
先週、謝罪広告の件でとりあげましたトライアイズ社の元監査役さんの一連の事件を顧みて、どうしても会社法実務として理解しにくい点が気になっております。今年はアコーディアゴルフの株主総会において、決議方法等に公正性が求められるために、株主側からの申立によって株主総会検査役が選任されております(会社法306条1項)。おそらく当日になって、投票ルール等で紛糾しないよう、検査役を通じて会社側と株主側でいくつかのルールが合意されているものと思います(たとえば委任状の記載にミスがあった場合に、どの程度のミスであれば会社は有効な委任状として取り扱うか、かりに定款に定められている取締役の員数を超えて過半数の賛同を得た取締役が生じる可能性を考えて、議案の取り上げ方をどのようにするか等)。
そもそも総会検査役の制度は、総会の招集手続きや決議方法を調査し、これを裁判所に報告するもので、少数株主の権利を保護するために少数株主に選任申立権が認められたものですが、平成17年改正会社法では、あらたに会社側からも選任申立権が規定されております(ちなみに東京地裁管轄では、年間25件程度の検査役選任事例があるようです)。つまり、会社としても株主総会の手続きが公正に行われることを担保する実益がある、ということになろうかと思われます。しかし、同306条1項では、取締役や監査役には検査役の選任申立権がありません。
先のトライアイズの臨時株主総会では、監査役解任議案が上程されており、解任議案についてはご承知のとおり特別決議事項とされています。よく「3分の2」の賛成がなければ監査役は解任されない、と言われます。しかし、上場会社では実際のところ、定款で定足数を緩和するところが多いと思いますので、議決権を行使できる株主総数の3分の1×3分の2、つまり全体のわずか22%の株主が賛同すれば解任できる、ということになります。中堅・中小の上場会社であれば、たとえば創業者社長や取引先の大口株主が賛同すれば、あっという間に解任できる数字です。しかし、ここに個人株主等が投票行動を起こして、議決権行使総数が増えるとなりますと、俄然3分の2の賛同という数字の重みが増してきます。
トライアイズ社に限らず、監査役が取締役の違法行為差止訴訟を提起したり、会社を代表して損害賠償請求訴訟を提起している場合には、現経営陣は監査役の解任決議を総会でとりつけることで、その訴訟を「バカな監査役が起こしたもので、どうもすみません」と言って取り下げることができることになります。これほどまでに重大な事態になるにもかかわらず、監査役は自身が解任される株主総会において、手続きの公正性を担保するための手段を活用することができないのはどうもおかしいように思います。
今後、社外取締役も(制度が強制されるかどうかは別として)まちがいなく増えてきますが、当然のことながら、社外監査役は経営陣と対立することが想定される立場にあります。社長と対立することが好ましいことではありませんが、社外取締役は、どうしても意見が食い違う可能性は高いわけでして、そういった場合に社長が「あいつはうるさいから、解任議案を出してやめさせてしまおう」といった強硬手段に出ることも考えられます。その社外取締役は、解任されるにあたり、総会の決議方法や招集手続きが適正に行われるよう検査役の選任申し立てはできないのでしょうか。監査役や取締役が少数株主としての要件を満たしていればいいのですが、社外役員の立場で多数の株式を個人的に保有しているケースも少ないわけで、こういった解任議案が上程される株主総会では、指をくわえてその手続きの進捗を眺めているしかない、というのはどうも納得がいきません。
会社が申し立てるよう要求するといっても、会社側が「公正にやるのだから、その必要はない」と言われてしまえばそれまでですし、機関として業務調査をすればよいではないか、といっても、現実に投票箱の横にへばりついているわけにもいかないでしょう。書面行使のチェックもできないものと思われます。監査役にせよ、取締役にせよ、会社法831条による決議取消の訴えを提起しうる立場にありますが、提起できる期間は3カ月と限られており、事実上解任されて社内に立ち入ることができない者が、自己責任で証拠を集める手段はありません。また、後日の証拠保全手続きを活用しても、そもそも違法行為が行われたと疑われる事実を疎明する資料の手元にないわけですから、却下される可能性が高いと思われます。
たしかに自己の解任決議について異議を述べるため、というのは、そもそも監査役や取締役としての職務の範囲内だろうか?という素朴な疑問があります。しかし適切な監査役の職務や取締役の職務が不当に制限されたまま解任される、という事態は、株主の利益を損なうものであり、今回のトライアイズ社の謝罪広告のように「あれは間違いでしたので撤回して陳謝します」と後日言われても、もはや監査役としての地位は戻らず、株主共同利益も回復されないことになってしまいます。そうであるならば、たとえ解任理由が「能力不足、資質に欠ける」といった抽象的なものであったとしても、会社と対立関係にある監査役や取締役には総会手続きの公正性を担保する機会を付与することが必要になってくるのではないでしょうか。また平成17年改正会社法が、会社自身にも検査役選任申立権を認めたことからみても、手続きの公正を担保することのために、広く総会検査役制度が認められてもよいのではないでしょうか。
このように考えても、会社法の解釈によって認められるものではございません。ひょっとすると、今回のエントリーは大恥をかいてしまうような誤解があるかもしれませんし、あまりエラそうには言えないのですが、少なくとも私と同じように疑問に感じておられる方もいるかもしれませんので、あえて(赤っ恥を覚悟のうえで)エントリーにしてみました。
編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年6月25日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。