イタリアは増税が裏目に出始めて、リセッションに陥りつつある兆候を目の当たりにしている。6月5日に公表された政府統計によると、ベルルスコーニ前首相が昨年9月に付加価値税(VAT)の税率を1ポイント引き上げて以来、同税の受取額は減少。4月末までの1年間の徴収額は2006年以降で最低に落ち込んでいる。
欧州協調路線で財政目標の達成を目指すイタリアにとって、適切な赤字削減の組み合わせを見いだすことは、イタリアが欧州金融危機で最大の犠牲者になる事態を回避するという意味で極めて重要であり、欧州全般に財政緊縮策への反発が広がり、不況により社会保障費が増大しているだけに、モンティ首相は緊急にイタリア経済の競争力向上に取り組む必要に迫られている。
ハーバード大学政治経済学のアルベルト・アレジーナ教授は「この政府は増税し過ぎた」と述べ、「歳出を減らす方がはるかに良い」と指摘した。VAT税収の減少を示す数値を受け、同国政府は税率をさらに2ポイント引き上げる措置の延期を迫られる可能性もある。首相側近らも増税によるリセッションの深刻化の可能性を認めている。
欧州を見ると、フランス大統領選とギリシャ総選挙を経て各国が冷静さを取り戻しつつある。
先の主要国首脳会議は財政再建とともに経済成長重視を強調。緊縮財政一本槍では経済が落ち込むばかりで危機がますます深刻化するという認識が深まった。先の主要国首脳会議G8サミットでは欧州債務危機脱却に向け、各国首脳が財政再建と経済成長の両立が不可欠との認識で一致する中、日本の首相は具体的な成長戦略に言及せず、国際公約のはずの消費税増税は国会審議への影響を憂慮しトーンダウンし日本の成長戦略について今年度は2%を上回る経済成長を実現させたいと抱負を述べただけで方策には触れず、増税による景気縮小とデフレ圧力に対して無策であることを露呈した。
日本政治における現政権の、増税路線をひた走る乗遅れ具合が浮彫りになってくる中で、日銀の白川総裁は日経誌で我が国のデフレ長期化の原因について「過去十数年の趨勢的な成長率の低下にある」と指摘し、「成長力が底上げされて初めて物価のマイナスが消える」という考えを表明した。
平成元年、4月1日に日本で初めての消費税法が施行された。当初の税率は3%。引き上げた直後の平成2年は60.1兆円の税収があったが、その後はリセッションがおこる。消費税を3%から5%に引き上げた直後の平成9年は53.9兆円で微増した、しかしその後はやはりリセッションによるデフレーションが発生、以後税収は53.9兆円を超したことが一度も無い。対し歳出総額は、平成10年度以降80兆円を下まわったことはない。
経済成長が脆弱なときに増税すれば段階的に悪化していく実例で、消費が鈍れば根幹的な法人税収と所得税収も落ち、消費税分は相殺される。デフレからの脱却により経済成長させるのがまず先であるという歴史の真実、そして昨今の現実という実証的な検証、国民の過半数を超えた増税反対を押し切ってまで増税しようとしている政治家を筆者は理解できない。増税に命を懸ける政権の下での成長はあり得ない。
日本では政局的な観点から消費税反対を唱えている政治家も多い。企業の支出カットは役員の給与や定数を減らし、さらにすべての経費を見直す。 現政権はこれをほとんどこれら歳出を減らすのに効果的な実行せず、その手法の逆をやっている。
消費税を10%に上げると12兆円の税収を見込めるとするが、これは現政権で歳出として増えた分に見合う額でもある。基本的に収入を増やすためには売上のパイを上げなければならない。GDPという国家の基礎体力そのものを増やしていかなければ、税率を上げてもイタリアのように税収は増えない。
原価率を下げて商品の魅力を落とし、購買意欲を損ね、結果的にお客さんは逃げてしまう。これは商品特性と当該顧客の管理を踏まえず、数値だけの観点から管理を優先させた企業が衰退に陥りがちな経営手法である。
商品には寿命があり、発生─成長─最盛期─安定─衰退─消滅期の諸段階を通過する。テクノロジー系は破壊創造型なのに対し、ファッション、アニメーション、音源系などの商品に関しては○○年代リバイバル現象など、同じ様式が周期的に普及と衰退を繰り返す循環型である。商品の特性と当該顧客の相関性を管理することが重要なのであり、増税という原価率を下げただけでは粗利益の率は上がるが額は上がらない。
低福祉・低負担のアメリカ合衆国は、小売に対し税金がかかり、税率は州、郡、市によって変わるが消費税の位置づけではなく売上税である。日本では税理士が重宝されるが、アメリカでは融資よりも投資を基軸に起業する為、税理士よりも会計士が活躍するビジネスを極めようとする教育土壌がある。
北欧のような高福祉・高負担においては、国民を幸せにする観点でのグランドデザインを極めている。北欧では徹底し「働くことは尊い」と教育されていく。勤労精神を忘れたかのような昨今の日本のように、前提として働かず生活保障をもらおうとする事象の考え方が増えていけば中福祉・中負担モデルは成り立たない。
労働意欲とモラル、国家に対する絶対的な信頼と誇りを取り戻し、共有する事が優先で、国民そして社員が幸せになり、消費意欲向上を成す為の将来に向けたデザインという基軸の力がなければ、国家も企業も成長という果実を享受することはない。
松田 宗幸 Muneyuki Matsuda
株式会社 Mホールディングス