先日のG20の際、野田首相はTPPの交渉参加への表明には至りませんでした。国内でもさほど大きく取り上げられることなく目先は消費税や政局に集中しています。しかし、今回の交渉表明留保は今後のプロセスにおいて日本にとって致命的な遅れになると共に交渉参加国からの支援という点でも厳しいものが予想されます。
G20の際、カナダとメキシコが交渉参加を表明しましたが日本と同時期、ないしその後に手を上げた国々が早々に次のステップに進んだわけです。
もちろんカナダもTPP参加交渉に関して道のりは簡単ではありません。例えば今般WTOから指摘されたのが酪農と養鶏関係製品。これらは国内産業保護政策によりカナダは他国と比し農業製品は11%高い金額となっているとしています。
カナダコンフェレンスボードの調査によるとカナダの牛乳はアメリカのそれに比べ38%高いし、オーストラリアと比べると42%高いとされています。また、CDハウ研究所では95年から09年までに一般的食糧は39%の価格増に対して、養鶏関係は61%、酪農製品、卵は51%値上がりしたとされています。
事実、カナダの交渉参加に難色を示したのが酪農国家オーストラリア、ニュージーランド、アメリカでこの分野、及び知的財産権がその障害理由となっています。が、カナダ全体の利益を考えた場合、ケベック中心の酪農農家保護の為にTPP参加国で6億5800万の人口がいる市場をギブアップするかどうかといえばそんなことはまずないでしょう。
事実、カナダのメディアのトーンも必ずしも酪農、養鶏産業に同調するというより「カナダ人は高いものを買わされている」というニュアンスが強い感があります。
私もたまにアメリカのコスコ(※編集部注:コストコ、COSTCO)に行き価格調査をするのですが例えば鶏肉と牛乳はカナダの半額近くで購入することが出来ます(ちなみにコスコは何処の国でも同じ商品や同等商品を売っていますので世界の物価調査の代名詞、ビックマック指数より幅広い価格調査ができるのです。もちろん私は日本のコスコもチェックしました。正直、商品によってはアメリカより安いものもあります)。
さて、そのTPPも政治色が色濃く出るのは止むを得ませんが、特に注目されるのはアメリカ対中国という構図かと思います。中国人民日報ではTPPに参加しない中国を市場から締め出すアメリカの政策だと強く非難しています。策略とか陰謀という言葉を投げかけながらの牽制の仕方はTPP参加交渉国にそれなりのプレッシャーを与えることになるでしょう。
一方、アメリカ民主党の次期大統領候補ロムニー氏は日本を交渉参加国に迎え入れることを良しとしておりません。理由は日本の閉鎖的市場に対しての不満でそう簡単にその扉を開けられないだろうという読みかもしれません。
日本は当面は政局が安定しない状況となるかも知れず当然ながらTPP交渉参加はかなり先の話になる公算が高いと思います。仮に解散総選挙でもあるならTPPは今年のものにならない可能性すらあります。ですが、カナダの世論と同じ、6億5800万の市場を逃してよいのか、という議論、そして、弱点といわれている農業を補助金漬けにするのではなく産業として作りなおす計画を早急に再構築することが日本の将来を決定付けると思います。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年6月30日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。