6月から7月にかけてはじめじめとした梅雨の季節だが、ことサッカー界においては非常にホットな時期である。
日本代表は、6月の上旬にFIFAワールドカップ2014 アジア最終予選の三連戦を戦い、一方ヨーロッパでは6月8日からUEFA EURO 2012がウクライナ・ポーランドで開催されている。EUROは決勝を残すのみとなったが、この数週間は目を充血させながら出勤するサッカーファンも少なくなかっただろう。
そういうわけで、筆者としてはすでに来年6月に行われるFIFAコンフェデレーションズカップ(アジア王者の日本も出場する)が楽しみなのだが、今年に関しては一段落するので箸休め的な記事を書いて締めくくろうと思う。
先日、TwitterにQ&Aサイトに投稿された「前田遼一がマスコミに注目されない理由」というタイトルの質問が流れてきた。質問の趣旨は「前田は活躍している&ハンサムなのに、本田や長友、香川などの海外組と比較するとマスコミに取り上げられていない。嫌われているのか」というものである。また、若干口は悪いものの質問への回答もある程度的を射ており、彼のおとなしい雰囲気や国内組のベテランであることがテレビ受けしないというのが落としどころになっている。
言わんとすることはよくわかるし、テーマとしても面白い。そこで本稿では、この質問を記事のタイトルにそのままスライドさせ、「前田遼一」という選手について深堀し、筆者なりの回答としたい。
まず、Googleで検索をかけてみると、予測変換に「前田遼一 呪い」「前田遼一 ジンクス」と出てきた。「死神」もある。なんのこっちゃと調べてみると、2007年~2011年の5シーズン連続、前田が初ゴールを決めたチームが降格しているという都市伝説だった。
人気サッカー情報番組「スパサカ」で取り上げられたこともあり、ネット上には“降格執行人”といったネタ系の書き込みが散見された。個人的には、もう少しまともな切り口で取り上げてほしいところだが、スポーツ系の雑誌でもクローズアップされているし(多くはないが)、注目されてはいる。
では、本題に入ろう。注目されてしかりの実力か否かについてはどうだろうか。彼は、高校卒業後2000年にジュビロ磐田に入団し以後12年間在籍しているが、リーグ戦通算276試合で122得点(2012年6月30日現在)を挙げている。これは、中山雅史、三浦知良、ウェズレイに次ぐ歴代4位の記録で、100得点到達は最速である。
明らかに、日本を代表するFWだ。前田はよく「万能型」と評されるが、実際に足でも頭でもゴールを決めることができ、ポストプレーもうまく、かつ献身的なディフェンスもできる。名実共に優秀な選手であることは間違いない。先日のオマーン戦、ヨルダン戦でも得点を挙げている。その意味では、「その割には注目されていない」という感想が生まれるのももっともだ。
ただ、日本代表において前田は目立った活躍をしてきたわけではない。現に、2009年、2010年と2シーズン連続で得点王に輝きながらも代表に招集されず、ワールドカップ出場メンバーには選ばれなかった。最終予選直前に行われた親善試合でのザック監督のファーストチョイスは森本貴幸だった。森本が怪我しなければ、その後の三試合はベンチを温めていたかもしれない。
そう考えると、数字の上では選ばれて当然なのにと不思議に思ったり、外側からはわからない理由があるのだろうと想像することになるのは、前田遼一ならではの現象と言えるかもしれない。冒頭で紹介したような質問は、彼が「実力に見合わない境遇」に置かれているという視点から生まれてくるのだろう。
もうひとつ、海外組が注目されるのは当然だとして、前田が活躍しつつもそれほど大きく取り上げられないのは、「大事な一戦での貴重or劇的なゴールではないから」というのもある。例えば、この先ワールドカップの出場を決める決勝ゴールを挙げる、勝ち点を積み上げられず苦しい展開で救世主となるといった感動を生み出すものであれば、スポーツ新聞の一面を飾ることになるし、彼は再評価されることになるだろう。
筆者としては、前田が日本代表のレギュラーであることに異存はない。目立たなかろうが口ベタだろうが実力通りに結果を出しているし、ザック監督が4-5-1のままで行くのであれば、最も計算できる選手としてワントップを任されてしかりだ。
「前田遼一がマスコミに注目されない理由」の答えとしては、彼は実績のあるベテランではあるものの今まさに日本代表に定着したのであり、「これから」の選手なのである。だから、これから活躍し続け、劇的なゴールなどがあれば、当然露出は増える。ハンサムなのであればなおさら。増えなければそれこそおかしな話である。となる。
余談だが、前田は全国大会に10回出場している暁星高校出身である。筆者自身、高校三年時に暁星高校と何度か対戦した(ベンチを温めていた)が、強豪校には珍しくスポーツ推薦枠がなく中高一貫のため、チームワークが良く、粘り強い印象があった。前田は一年生にしてレギュラーの座を掴んでいたのを覚えている。
その年は全国大会の予選で早々と姿を消したこともあり、当然ながら彼がプロになり、日本代表のエースになるとは思いもよらなかった。ただ、同時期にサッカー漬けの青春時代を送った仲間という感覚があり、筆者の彼を応援したい気持ちは人一倍強い。
2年後の梅雨の季節に、円熟味を増した前田遼一がサッカー王国ブラジルで躍動し、ゴールネットを揺らすことを切に願っている。
青木 勇気
@totti81