イスラムの豚肉と日本のレバ刺し

山口 巌

今日から愈々「レバ刺し禁止」である。この記事に依れば「違反した場合は2年以下の懲役、または200万円以下の罰金」との事である。監督官庁である厚労省の気合の入り方が尋常ではない。


同じ様な話で思い出すのは、イスラム諸国に於ける「豚肉禁止」である。私は30台の前半の三年強を中東で駐在員として過ごしたが、イスラム教徒の「豚」を忌避する所半端では無かった。その理由は色々と説明してくれる訳であるが、論理的な物では無い。

露骨に言ってしまえば「豚」は不浄のものであり、食べて体に取り込むなどトンデモナイといった結論ありきの話であったと記憶している。読者の皆さんに何か良い資料は無いかと探していたら、M. フセイン・マリク(マレーシア大学教授)のムスリムが豚肉を食べない医学的理由を発見した。

日本人には荒唐無稽に思われるだろうが、学歴がなく敬虔なイスラム庶民はもっと過激で「豚」を食べてるとか、「豚」は美味いとか言ったら殴られるか、石を投げられそうである。

「人間は自分の食べているものによってつくられる」という英国の諺がありますが、医師や医学者たちによれば、豚肉は人間の身体にとても有害なものです。豚肉の摂取は人間の性格を歪め、人間の道徳感を鈍らせ、同時に精神的能力を低下させて破壊的状況を引き起こします。 雄豚が十頭余り、群をなして雌豚と交尾する光景は一般によく見られることです。これに似た人間の行為は豚を食肉とする国の人々の間にも見られます。不道徳な行為の追求、食欲の満足だけのための食道楽、芸術家気取りやファッションの一部として行われる男女間の性交、アルコール漬けの状態の遊び三昧などが蔓延してどうしようもない状態にある国、それが豚を食肉にしている国々です。

さて、話を日本に戻さねばならない。厚労省が今回厳罰化を決めた理由としてレバ刺しの危険が挙げられている。しかしながら、厚労省の説明資料読んでも、一体何処がそんなに危険なのか? と言う気になる。

生の牛の肝臓などが原因と考えられる食中毒で、14年間で危険とされる腸管出血性大腸菌が原因の患者数は79人に過ぎない。死亡率は1~5%との事であるから、勿論リスクはゼロではないが、これ程目くじらを立てる様な話とはとても思えない。

リスクのある「食べ物」など他に幾らでもあるし、「食べ物」以外にもリスクは我々の身の回りの身近な所に、同様幾らでもある。

餅を喉に詰まらせ、高齢者が亡くなるのは正月の恒例行事である。東京消防庁管内だけでも下記の数字である。全国では「レバ刺し」食中毒とは比較にならぬ事故が発生しているのは確実である。

東京消防庁よると平成18年から平成22年までの5年間で、餅などに起因した窒息事故で601人が救急搬送されているそうです。

「レバ刺し」が危険だからとの理由で禁止となるのであれば、「餅」も禁止せねば理屈が通らない。参考迄に「餅」以外の危険な食べ物は下記が列記されている。

1位:もち(168例、「こんにゃく入りゼリー」の84倍危険)
2位:パン(90例、「こんにゃく入りゼリー」の45倍危険)
3位:ご飯(89例、「こんにゃく入りゼリー」の44.5倍危険)
4位:すし(41例、「こんにゃく入りゼリー」の20.5倍危険)

いっその事、パンや米の販売の自粛をスーパーに要請してはどうだろうか? 寿司屋に寿司の提供自粛も併せ行政指導すべきであろう。

「食べ物」以外のリスクと言えば、例えば「山登り」が思いつく。

昨年度ベースで、山岳遭難発生件数は1,942件( 前年対比+266件) 遭難者数 2,396人( 前年対比+311人)
うち死者・行方不明者294人(前年対比-23人)

どう考えても「レバ刺し」食中毒とは比較にならぬ事故、死者件数である。「レバ刺し」禁止なら当然「山登り」も禁止にすべきである。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役