「能力」が「野心」に追いつかない ─ 小沢一郎の限界!

北村 隆司

田原総一郎氏のブログ「正念場を迎える剛腕・小沢一郎の2つの弱点」を読んだ。

小沢氏を「腕力があり、権謀術数をめぐらすことに長けた、現在の日本の政治家のなかで、もっとも傑出した政治力を持つ人物だ。今後、日本の政治のキーパーソンになるだろう」と評し、豪腕ぶりを紹介すると同時に、弱点として「考えに一貫性がない」「政策に関心がない」そして、「許容力」が小さいと指摘している。

さすが田原氏だけに、言い得て妙である。


私は、1993年に小沢氏が発表した「日本改造計画」を読んだ時、小沢氏の理念や理想は見えなかったが、並べられた政策は誠に新鮮で、日本の新しい保守政治家の誕生だと、期待に胸を膨らませた事を覚えている。

私もその時は「小沢さんが、日本の政治のキーパーソンになるだろう」と期待したが、その後の小沢氏の言動は期待を裏切るものであった。

後から読んだゴシップでは、執筆過程の詳細は不明で、誰が書いたのかもはっきりしないと言う。これでは、一貫性が無いと言うより、最初から自分の提案した政策を理解していなかったのでは? とすら思える。

今回の騒動でも、小沢氏はマニフェスト(政策)を、権謀術数の手段としか考えていないことがはっきりした。その小沢氏をキーパーソンにするほど、日本の国民は愚かではないと信じたい。

小沢氏の手法で一貫性があるとすれば、その古びた手法だけで、今回も旧新生党や旧自由党など新党を作っては壊してきた事の繰り返しだ。これでは、国民が「またか」と思うのも当然である。

小沢氏は野田首相の増税方針を、「嘘つきだ」と厳しく批判したが、「民主党政権政策(マニフェスト)」の一丁目一番地に、税金のムダ使いををやめれば財源は充分出ると高言して総選挙を勝利に導いたが、選挙を仕切ったのが小沢氏だった事をお忘れか? 失政の責任は、野田首相より重い。

小沢氏の次回選挙対策は「反増税」「反原発」だそうだが、離党したからと言って、民主党時代のマニフェストの大嘘を棚に上げて、票目当てのいい加減な約束をして貰っては困る。

「増税反対」を唱えるなら、ムダ使い防止で約束した財源を生み出せなかった自分の前科を詫び、今後の日本統治に必要な財源を示した上で主張するべきである。

「反税」は国民の耳には心地良いかも知れないが、先ず、お膝元の岩手県をはじめとする東日本大震災の被災地の復旧費用を考えると、赤字国債の発行と増税を認めて欲しいと全国民に訴える方が理にかなっている。

そして、「反原発」は良しとしても、「原発を着実に進める」と約束したマニフェストを訂正して不明を詫びると同時に、電力危機や産業空洞化阻止の具体策を示してから主張するのが、最低の礼節である。

小沢さんも、鳩山さんも「民主党のマニフェストは正しい」と主張されるが、それなら、失敗した「ムダ使いの廃止」以外に、マニフェストで約束した1.子育て教育補助 2.年金・医療での最低保障 3.後期高齢者医療制度の廃止と医師の数を1.5倍にする。4. 地方の自主財源を大幅に増やし、農業の戸別所得補償や高速道路の無料化を実施 5. 中小企業の法人税率切り下げや月額10万円の求職者支援の実行に必要な財源を示して欲しい。

さもなければ、社民党と合併し、永遠野党を宣言した方が分かり易い。

小沢さん。「議員の世襲と企業団体献金は禁止し、衆院定数を80削減します」と言うのもマニフェストの約束です。これを、守る気持ちがあるのであれば小沢さんと鳩山さんは次回選挙には立候補を辞退して範を示すべき責任がある。

「公平で、簡素な税制をつくる」と言う項目で、「租税特措置の廃止」を公約に掲げながら、自分の操り人形であった鳩山首相に、揮発油税の暫定税率廃止の中止を真っ先に要求したのも小沢氏であった。

小沢氏の唱える政治改革とは、既得権を自分の手元に戻す為の「利権構造」の改革に過ぎず、党内改革は、公認権と政党交付金の分配権を自分で握る事が目的で、国民生活とは無縁である事もはっきりした。

前回総選挙で自派の新人を大量当選させたのも、政党交付金を自分に集中させ、私兵を養った結果に他ならない。兎に角、小沢さんには疑惑が多すぎ、透明性を重視する近代政治には向かない。

こうして見て来ると、小沢氏は有能だが、「能力」が「野心」に追いつかない惜しい政治家である。