飲食で起業するとき注意すべきこと --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

バンクーバー近郊のモール内の取引業者に行ったところ、長年空いていたモールのスペースに遂にドーナツ屋が入居し、まさにその日からオープンというところでした。スタッフも慣れない手つきながら一生懸命お客さんに対応していたのですが、妙にドーナツの油臭い匂いが周辺に充満していました。


その二日後、その取引業者の所を再び訪れたところ、そのドーナツ屋は既に閉店をしていました。取引業者の店主に事情を聞くとドーナツを揚げる油の匂いがモール中に充満し、ほぼ強制的にビジネスをシャットダウンさせられたようです。よく見ればそのドーナツ屋にはなぜか換気扇がありません。よくこれでライセンスが取れたとも思いますが、私にしてみればありえないような事件を間近で見てしまったような気がします。

聞いたことのない名前のドーナツ屋ですから個人事業主だと思いますが、店を開けるまでにあらゆる投資を前倒しで行いオープン後、投資を回収しようとした矢先でしょうからある意味丸損になってしまう可能性が高いと思います。

実はこんな話は街中、いくらでもころがっています。特に飲食関係はエントリーしやすいということでつい、料理自慢が高じて店を出すということもあるようですが、飲食で成功できるところはせいぜい1割か2割ではないかと思います。特に高級レストランになると近年ではとてつもない大金を内装などに使い、店をオープンするところも多いのですが、成功した例は極めて限られると思います。

理由は比較的単純です。

内装等に大金をかけた飲食店の店舗リース期間中の減価償却が大きすぎること。例えばこれはありうる例ですが、内装に2億円使ったとしましょう。10年リースなら年間の償却は単純計算で2000万円。月ならば167万円、一日56000円です。しかも2億も内装に金を使うのに手金でやる人は少なく、大体強欲な投資家を抱えるのが普通です。儲かっていなければ投資家と揉めるのは確実です。

次に客目線で考えれば内装が凝った新しいレストランはいくらでもオープンするということを頭に入れなくてはいけません。億単位の内装費用を使うレストランはバンクーバーでも年間に数軒はオープンします。それに対して客は「浮気がち」だということに気がつかねばなりません。客が内装で釣られてくるところは必ず限界が来るのです。10年間同じレベルは維持できないと思います。

私がカフェの事業をして6年目になります。正直、私の手持ち事業で一番手間ヒマがかかるビジネスですが、面白いのでこの6年間改善を怠ったことがありません。結果として売り上げは確実に右上がりで販売コストも下がってきています。なぜ、コストが下がるかといえば取引業者との交渉余力の増大化や業者の変更などで取引アイテムの単価を一気に下げてしまうことが可能だったからです。もちろん、品質は落としません。

逆に言えば我慢のビジネスをしていれば成長する余地もあるということです。

あるカナダ人が所有する高級日本食レストランはやはり数億円の内装費をかけてオープンしましたが評判は今ひとつです。私は時々「寿司は食べられるけど内装はいくら立派でも食べられないからねぇ」と呟くのですが、世の中には節度あるレベルはあると思います。シアトルでも5年ぐらい前まではそんなレストランが数多く見られたのですが大分減ったと聞いています。

日本のバブルの頃もレストランはどんどん派手になって行きましたが生き残ったところはほとんどなかったと思います。ビジネスですから収益に直接的にインパクトが生じる場合、一定の枠を飛び出すとよほどのアイディアがない限り持続できない気がします。

起業は今日、明日のブームに乗じるのではなく5年後、10年後にどういう位置づけにするかという視線で捉えるべきではないかと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年7月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。