JPモルガンの自己勘定取引による巨額損失についての雑感

藤沢 数希

13日、JPモルガンの4-6月(第2四半期)決算発表があり、クレジット・デリバティブで巨額損失を出したと報道されいたチーフ・インベストメント・オフィス(CIO)部門が、これまでに75億ドル(約6000億円)ほどの損失を出したことを明らかにした。当初は2000億円程度の損失と報じられていたCIOだが、ロスカットしなければいけない巨大なポジションが他の銀行やヘッジファンドにバレて、みんなでカモられたようだ。その後に膨らんだJPモルガンの4000億円程度の追加的な損失は、他の銀行やヘッジファンドの利益になっているだろう。


また、CIOのヘッドのアイナ・ドルー氏と、このロスを出したトレーダーのブルーノ・イクシル氏は、すでに辞職している。これらのポジションの損失処理をしていたマイケル・カバナー氏は、2010年と11年に受け取った3150万ドル(約30億円程度)のボーナスを返還すると申し出ているそうである

これほどの巨大なポジションを取ることを許されていたトレーダーは、過去にやはり数十億円程度のボーナスを支給されていたわけであるが、JPモルガンの取締役は返還を求めるという。いずれにしても、この巨額損失は、投資銀行の自己勘定取引を規制する機運をさらに高めることになった。

しかし、このように事後的にトレーダーを処分したところで何ら問題は解決しないと考えている。まず第一にトレーダーはただの従業員であり、労働法で守られるべき労働者であり、過去に遡ってのボーナスの返還など、法律的には常軌を逸している。そして、それほどの巨大なリスクを取ることを容認しており、投げたコインがいい方に出れば自らの業績として嬉々として株主に報告していた経営陣が、悪い方に出た時はその責任の全てをトレーダーに押し付ける態度というのは、従業員に尊敬されねばならない経営者として、資質がないという他ない。過去のボーナスを返還し、辞表を提出するべきは、トレーダーではなく、ジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)であり、JPモルガンの取締役なのである。最後に、トレーダーの責任を個別に追求したところで、現在の金融コングロマリットが抱えている根本的な問題点、”Too Big to Fail”に関して何の解決にもならないのだ。

リーマンブラザーズの破綻によりアメリカの金融システムが崩壊寸前になり、アメリカの財務省は、金融安定化法案を議会に提出し、7000億ドル規模の不良資産買い取りプログラム(TARP: Troubled Assets Relief Program)を実施していった。AIGには700億ドル、シティバンクには450億ドル、バンク・オブ・アメリカには350億ドルという天文学的な公的資金が注入された。ゴールドマンサックス、モルガン・スタンレー、ウェルス・ファーゴなどにも100億ドルずつ公的資金が注入されている。

JPモルガンのような巨大金融コングロマリットは、レフト・テイルの悪いの方のリスクが実現すると、政府により救済されるのだ。欧州系の金融コングロマリットはさらに酷い。スイスのUBS、ドイツのドイチェ・バンク、フランスのBNPパリバなど、すでに一金融機関の総資産が自国のGDPを超えている。このような金融機関が破綻する時は、どうやって救済しようというのだ。

“Too Big to Fail”問題は、依然として、シンプルであるが最も解決が困難な問題なのである。こうした金融機関で働く経営者や従業員の報酬はどうあるべきなのか。そして、金融危機でたまたま大損したので今は被害者面している株主も、有限責任を最大限に活かし、誰よりも過剰なリスクテイクを期待していたのだ。金融危機は、まだ終わっていない。