長く低迷が続く 米国Yahoo!の新CEOに、Googleの20番目の古株社員だったマリッサ・メイヤーが就任しました。彼女は恵まれた容姿と才能を持つエンジニアであり、超ハードワーカーであることで有名です。Googleの数多くのプロダクトのユーザーインターフェイスの開発に携わってきた人物です。
現在のYahoo!はテクノロジー企業というよりはメディア企業です。この数ヶ月暫定CEOとして働いていた(そして正式CEOの有力な対抗馬と目されていた)ロス・レビンソンが広告・メディアマーケティングのプロであったことでも分かります。しかし、そのレビンソンをおいてメイヤーがCEOになったということは、Yahoo!がメディア志向からテクノロジー志向、もしくはテクノロジーに裏付けされたハイテクメディア企業への脱皮を考えているということの証左かもしれません。
しかし、メイヤーの手腕を持ってしても、Yahoo!の復活があるか?という点については、僕自身はかなり疑問視しています。
そもそもYahoo!の失敗は、GoogleやAppleらが革新的なテクノロジーによって常に世界の最先端にいるイメージを保ち続けてきたのに対して、技術的に古い、新しさがないという印象が自らに張り付き始めていることを無視し続けたことにあります。世界のインターネットテクノロジーにスマートフォンによるモバイル化と、Facebook、Twitterらの台頭によるソーシャル化という、クロスオーバーする二つの巨大トレンドが訪れても、せいぜいスタートアップの買収に手を出すだけで、自社テクノロジーによるサービスでトレンドをキャッチアップしようとはしませんでした。
Googleは自身の検索エンジンを磨き続け、Webのトラフィックの基点としてポータルを時代遅れにしましたが、iPhone/iPadを擁してモバイルインターネット時代の台風の目になったAppleにはAndroid、実名SNSによって世界中の個人をインターネットプロトコル化しはじめたFacebookに対してはGoogle+をぶつけて、意地でも王者の地位を失うまいと必死で踏ん張っています。残念ながらYahoo!は、そうした自助努力をしてこなかった。(していたのかもしれないが、不十分だった)
メイヤーはGoogleの中でも比較的”有名人”であり、女性でありながらエンジニアです。そういう人物をGoogleから引き抜くことでのPR効果をYahoo!の取締役会は狙ったのでしょうし、実際テクノロジーに明るい人物をトップに据えることで変化をもたらそうと考えたのでしょうが、「Yahoo!とは何か?」という問いと、「Yahoo!は必要か?」という問いに対する回答を彼女がうまく用意できるかどうかは、かなり難しい問題です。なぜなら、メイヤーはさまざまなプロダクトの開発に関わった優秀な人物ではありますが、同じGoogleでも例えばアンディ・ルービンのように、「(Androidのように)無料のオープンソース型モバイルOSを開発してモバイルインターネットに革命を起こす」というような強烈かつシンプルなヴィジョンを持ってこなかったからです。
僕が思うに、Yahoo!に必要なのは、いますぐに「Yahoo!をこう変えてやる!」「 新生Yahoo!はこうなるべきだ」という強力な意見/意志と野心を持つ人物です。部分最適をしても間に合いません。あれこれ買収しても間に合いません。とても間に合わないのです。要らないサービスを徹底的に削って、何でもありのポータル企業、コンテンツ重視のメディア企業から、絞り込んだテクノロジーに依ったエッジの効いたハイテクサービスの会社に生まれ変わるには、短期間で一気にやらねばなりません。Yahoo!のような巨艦が変身するには、できるだけ曲がる方向に巨体を傾け、多少危険でも一気に荷重をかけてやらねばならないと思います。
その意味でどうせ引き抜くなら(無理かもしれないけれど)アンディ・ルービンか、AppleのiOS担当上級副社長スコット・フォーストールが良かった。もしくは元Facebook共同創業者でありオバマ政権発足の立役者の一人であるクリス・ヒューズあたりが良かった。モバイルかソーシャルに舵を取る、と明確に見えたのならば、市場ももう少し好意的になるのではないか、そう思います。
– 小川浩( @ogawakazuhiro )