貧乏人の経済学 – もういちど貧困問題を根っこから考える
著者:アビジット・V・バナジー
販売元:みすず書房
(2012-04-03)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆
開発経済学の歴史は、失敗の連続だった。イースタリーも指摘するように、先進国が途上国に手をさしのべて救おうという善意は、現地の政治家を腐敗させて国内の政治的対立や民族紛争を激化させただけだった。これを改善するために、大規模な援助で「貧困の罠」を打開しようとしたサックスの「トップダウン」型アプローチも失敗に終わった。
本書は、彼らより下の世代の開発経済学者が、実験的手法で援助の効果をテストし、その結果を一般向けにまとめたものだ。彼らは「サックスもイースタリーも部分的に正しく、部分的に間違っている」というが、全体としてはサックスの主張をほぼ全面的に否定している。その根本的な原因は、援助が効果を上げるために必要なインフラが途上国に欠けており、人々が自分の生活を改善するための情報がないからだという。
内容は途上国の細かい話が多く、日本の読者が読んでもおもしろくないと思うが、最後の政治経済学的なインプリケーションの部分は少し日本とも関係がある。途上国援助が失敗する最大の原因は政府が機能していない「失敗国家」だからであり、それを放置して援助のテクニックを改善しても意味がない。これに対して提案されているのが、ゼロから新しい都市を建設しようというローマーのチャーターシティである。
同じことは、失敗国家になりつつある日本にもいえるかもしれない。景気動向指数などで微視的にみると日本経済は改善しており、コスト削減で生産性も上がっているが、政治がこれほどグダグダでは将来への期待がもてない。これを既存の政治家にまかせていても改善の見通しはないので、「大阪特別区」がチャーターシティになって大胆な改革をしてはどうだろうか。