枝野経産相は、関西電力の八木社長が「高浜原発3・4号機を優先的に再稼働する方向で、これから国と調整をさせていただきたい」と発言したのに対して「大変不快な発言だ」と言ったそうだ。枝野氏が八木氏と会ったら、相手に面と向かって「お前の話は不快だ」というだろうか。これは普通の個人の発言ではなく、「お上」の業者に対する脅しである。
民主党政権はろくな実績もないくせに、特権意識だけは一人前になったらしい。さすがに今日になって枝野氏は「原子力に対する国民の不信を認識して行動することがより重要だ」とトーンダウンしたが、問題は原発が安全かどうかであって「国民の不信」ではない。ニューズウィークにも書いたが、原発事故で600人以上の死者をもたらしたのは政府の過大な避難勧告である。
さらにあきれたのは、枝野氏を応援する朝日新聞の社説だ。八木社長の発言に「事業者の願望を語っただけと見過ごすわけにはいかない」とすごんで、こう書く。
八木社長は「需給ではなく、わが国のエネルギー安全保障を考えて」と語っている。本音は「自社の安全保障を考えて」だろう。関電は4~6月期の連結経常損益が、1千億円程度の赤字になる見通しだ。火力発電の燃料コストが主な要因となっている。
経営者が1000億円の赤字を懸念することが悪いとでもいいたいのだろうか。これは総括原価主義のもとでは利用者に転嫁され、このままでは全国で毎年3兆円の国富が流出するのだが、「できるかできないか考えないで原発ゼロにしよう」と主張する大野博人論説主幹は、そんなことは考えないのだろう。
しかもこの1000億円は、政府の違法な停止命令による損害だ。電気事業法によれば、定期検査を終えた発電所の運転を政府が差し止めることができるのは、技術基準に適合していない場合だけだが、大飯も高浜も現在の技術基準には適合している。高浜のストレステスト(法的拘束力はない)の結果も審査中で、まもなく結果が出る。それに合格したら運転したいというのは、企業として当然の要望だろう。
枝野氏は「原子力規制委員会が(9月に)発足し、どういう手順、手続きで評価・判断するのか、発電事業者としてはそれを見守るのが今の姿勢だ」というが、法律が改正されるまでは現在の法律を適用するのが法治国家のルールである。規制委員会が発足するのを待てというのは、事故を起こしていない飛行機の運航を止めておいて「航空法が改正されるまで飛ぶな」というようなものだ。
原子力規制委員会がどういう規制を行なうかは、現在の原発の運転とは無関係だ。それを超えて「超法規的」に原発を止めようというなら、有事立法をつくって原発停止命令を定めるしかない。弁護士である枝野氏が、この程度の論理も知らないとは思えないが、電力会社をたたいて落ち目の民主党政権の人気を挽回しようとしているのなら、そのほうがよほど不快である。