尖閣の価値と所有について考える --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

産経新聞は尖閣諸島の3島を所有する埼玉県の地権者に政府が20億円でオファーを入れたが断られたと報道されています。また、朝日、毎日も同様の報道を7月20、21日頃に行っています。ことの真相は定かではありませんが、報道では断言調ですので産経はある事実をつかんでの話かと思います。


この話はもともと石原都知事が地権者と話をつけた際、「国には売りたくないが石原さんになら」というストーリーだったはずです。一方、国は、東京都が購入することを表明した後、東京都には寄付金が14億円近く集まっている状態で尖閣を守るという姿勢がメディア等で報道される中、「やはり国が持ったほうがよい」と後出しじゃんけん的な形でその所有の意志を強く打ち出してきました。

その後、水面下で地権者を含め、それなりの交渉が行われたのだろうと思います。産経、朝日、毎日新聞の報道が正しければその結果としてNoを突きつけられたということです。

来年三月までは尖閣は地権者が国に島を年間約2450万円程度で賃貸借契約で貸しています。この契約切れを契機に東京都が地権者から当該島を買い受ける方向で交渉が進み、先週には東京都がウォールストリートジャーナルに意見広告を載せ、その行動に賛同を得る動きに出ています。

ここで国が突然、やはり国が国防上のことも含め、所有すべきだ、としゃしゃり出てきたところに若干奇妙な感じがしないでもありません。

なぜなら、国が所有すべきだと心底思っているならば地権者といえども自分の土地に容易にアクセスできないほどの制約を付しているわけですから収用でもするぐらいの勢いがあってよかったはずです。しかし、実態としては総務省との賃貸借契約となって言葉は悪いですが「だましだまし」時間を稼いでいたという風にみえます。

一方、東京都は既に東京都が買うという前提で寄付も募っているわけですからものの道理からすれば東京都が買わないほうがおかしいと思います。では、東京都が買ったあとどうするかですが、私なら国に有償長期リースという形をとり、管理を含めた使用権を国に提供するのが相応しい気がします。

これにより東京都が買った実績は出来ること、つまり、地権者と石原知事の間の「契り」は果たすことになります。次に国防上の問題は国が引き続き実権を握ることが出来ますし、東京都にはしかるべき賃料収入をえることで「投資」扱いという考え方で処理することが出来ます。

更に、外交的には民間から国に所有権が移るより東京都というLower Tier (国に比べて一段格下)のオーソリティが現地権者との関係から取得したとするほうが説明しやすいはずです。むしろ、国が所有すべきだと大々的な動きをすることが外交的な余計な刺激を各方面に与えることになる気がいたします。

ところで政府が提示している20億円ですが、東京とは10~15億円で提示するのではないかと見られています。そうだとすれば5億円以上のプレミアムをつけるという意味に対して国民が黙っているのもおかしいですね。海外では一定のディスクロージャーがありますし、税の使い方について知る権利はあると思います。ちなみに国が払っている賃料から計算する島の経済的価値はせいぜい5億円程度のはずであとはプレミアムをどれだけ乗せるかという話かと思います。

まだまだ本件はひと悶着ありそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年7月31日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。