1日に行われたアメリカの連邦公開市場委員会(FOMC)では引き続き、QE3と称する金融緩和措置を見送りました。ステートメント上では前回と大きく変化はないもののアメリカ経済はlost momentaum (勢いをなくしている)と景気に対する懸念を示しました。
QE3に対する市場の期待は半年以上前から脈々と続いているのですが、時が経つにつれて市場ではその期待度が下がってきていることは明白です。事実、今日は株式市場の反応も一時的に下げましたが、以前ほどではないというのが実感です。
今、議論しなくてはいけないのは金融政策だけでは景気を浮上させるにはもはや困難であるということを認めるかどうかという次元にはいっている気がします。本来であれば政治的な処遇と金融政策がうまくかみ合ってこそ、経済のコントロールをよりよくすることが出来るのですが、ねじれ議会の上に大統領選を控えた今、アメリカに何か政治的にブリリアントな対策を求めるのがもともと無理な話でした。よって、バーナンキ議長率いるFOMCに過度の期待がかかっていたことは事実だと思います。
むしろ、アメリカは年末にFiscal Cliff(財政の崖)問題が控えています。以前、このブログではこの言葉は年後半にかけて頻繁に出てくる言葉です、と指摘させて頂いたと思いますが、最近、この言葉をかなり見かけるようになって来ました。私が寄稿させて頂いているカナダ トロントの月刊誌Torjaで9月号にはそれについて詳細に書かせていただく予定です。
政治的な処方箋で乗り切ろうとしたのがカナダ。インフレ率はターゲット圏内ですが、個人債務比率の高さを気にする中銀と財務省は利上げという選択肢があったもののそれを取らず、あえて個人債務比率を下げるための施策である住宅ローンの条件厳格化で住宅ブームを沈静化させ、結果として利上げをせずに中銀と政府の懸念事項を解決させる方策を取りました。7月1日に発効したばかりですので効果の程はまだなんともいえませんが、正直、私は必要以上に不動産市場をプルバックさせることになる気がしています。
事実、住宅購入者の住宅ローン審査が通らないケースが頻発してきており、中古住宅の回転率が悪化してきています。特に移民国家であるカナダにおいて移民の住宅ローン審査が厳しくなっているように聞いています。理由は雇用の安定性などだと思います。住宅の売り手へ買いのオファーがあっても住宅ローンが取れることを条件とする、とあれば売り手はまさにフィンガークロス、幸運を祈る、としかいいようがない状況にあります。
ところで、あるメルマガに世界はマネーの行き場をなくしているので株式市場に流入するはずだという主張がなされていました。また、別のメルマガでも日本やアメリカの場合、株式の配当利回りが10年ものの国債よりはるかに高い状態にあるので株式に資金が廻ってもおかしくないとしております。
私はそれは違うと思っています。世界はリスクを取るか取らないか、というメジャメントであって株式の配当が10年ものの国債より3倍も4倍もよいとしてもだからといって株式市場にお金が流入するというメカニズムではありません。国債には国債の利点があります。だからこそ、マイナス金利でもそこに資金が流入する余地があるのです。
もしも本当に世界にお金が余っているのならば、そして、私が資金運用担当者であれば多少の資金を日本の不動産運用に廻したいと思います。日本の不動産は十分すぎるほど安く、東京あたりの利回りは世界の主要都市では健全性とその高さでは最上クラスだと思います。東京の不動産は下値不安が圧倒的に少ないと思います。それは20年間もまれてきた強みともいえるかもしれません。
本題からずれてしまいました。アメリカはこれ以上金融緩和をしないのか、というタイトルに対して私はそのカードは引き続き残すけれどバーナンキ議長はその効果に大いに懐疑的であり、それを行わざるをえないときにやむを得ず行うがそれは非常時の対策である、というのが私の今の読み込み方です。
長くなりました。今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年8月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。