消費や投資が減り、失業が増えているから、有効需要を出すために財政出動をして、需要と雇用の水準を元に戻せ、と言っているが、元が高すぎたという解釈が一般的だ。
政策で安易に需要を出そうとすると、エコポイントやエコカー減税により、シャープやパナソニック、ソニーが危機に追い込まれる。彼らも悪いが、エコポイントも大きく貢献した。次はエコカーだが、波を作るのはよくない、というのは、私が昔から、(まだこれほどまでには壊れていなかった)Krugman批判として議論してきたものだ。
krugmanが1997-1999年頃に日本を批判していたが、そのときに、liquidity trapあるいはデフレスパイラルの問題を指摘し、その解決策として挙げた経済のメカニズムは以下のようなものだった。(小幡が例は改変)
レクサスがある。デフレだから、毎年レクサスは15%ずつ値下がりする。そうすると、レクサスが欲しい消費者は、買い控えを起こす。価格が底を打つのを待って買うから、下がり続けている限りは、消費が産まれない。経済全体も同じで、だからデフレは悪い。
ここで、インフレを起こす。レクサスが毎年15%ずつ値上がりすることが分かる。そうすると、どうせレクサスを買うのなら、早く買った方が良い。なので、今年買う。それで消費が出てくる。カネが回り始めて、景気が良くなる。
ということだ。
これまでも何度も繰り返してきたから、昔からの読者は飽き飽きしているだろうが(そもそもkrugman批判に飽きているだろうが)、これが現実には異なることを説明する。
これが当てはまるのは、レクサスという嗜好品で高級品であり、消費者が財政的に豊かだ、ということに大きく依存している。
もし必需品であり、消費者は生涯所得に対して不安を持っている場合にはどうか。
現実には、雇用不安もあるし、賃金カットの不安もある。それが現状だ。賃金が上がるなんてことはとても考えられない。そのような時に、マイルドなインフレ、15%ではなく(これはレクサスの場合は減価償却、つまり経年劣化で価値が落ちることを想定したために高い率にしていた)、5%のインフレが起きたとしよう。デフレだったから、みんな予期していない。このときどうするか。
賃金不安、雇用不安があるのに、物価まで上がってしまったら、もうどうしようもない。実質生涯賃金の期待値は低下するから(物価上昇により。賃金は上がらない)、倹約をする。
そう。失業が問題になっている状態で、インフレが起きたら、消費は減少する。さらなる不況スパイラルだ。だからこそ、スタグフレーション(不況の中で起きるインフレ。オイルショック後など)は一番困るのだ。
だから、リフレ政策などとんでもないし、駆け込み需要を煽るための、毎年の消費税率の引き上げ(毎年1%ずつ上げる。そうすると駆け込み需要が毎年起こって買い控えがなくなるという政策提言)も、景気にはマイナスだ。そもそも、皆が不幸になる。
この議論に対する反論はいくつかあるが、5%モノの値段が上がったから、賃金も5%上がるだろ、という反論がある(ネットエコノミスト達になぜか多い。経済学をブログなどでしかかじっていない人々)。
これは机上の空論だ。
ナイーブなマクロモデルでは、物価は賃金水準と共に上がるが、現状で賃金が全体的に上がると言うことはあり得ない。企業は海外の低賃金と争っているのに、さらに上げるなどいうことはあり得ない。そこへ無理矢理物価を上げるわけだから、これは実質所得減である。
しかし、実は、この逆の批判が重要で、賃金が上がらないなら、インフレは起きないじゃないか、という逆の因果関係だ。
この批判は正しい。
グローバル競争で、賃金が上がらない状況になっている以上(これは日本政府の政策ではどうしようもない。採点賃金の引き上げや為替では解決できない)、インフレは起きないのである。
だから、日銀は厳密なインフレターゲットは置かないし、インフレを起こそうとすれば、経済に大きな歪みが生じるので、まともな政策アドバイザーも政権担当者も、それは提案しない。
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むしろ、問題はエコポイントやエコカー補助金が、同じようなことをもたらす、つまり、駆け込み需要は起こすが、その反動減はきつい、つまり、ネットでは需要が減ってしまうのに、供給サイド(企業)は、エコポイント特需をリアバルの競争の中で捉えるために、無駄な投資を行い、ビジネスモデルシフトのチャンスを逃し(誰が大型テレビで儲かり続けると思うだろうか)、危機に追い込まれることとなったのだ。