消費税増税は日本のビジネスを変える

大西 宏

消費税増税と社会保障の一体改革法案が国会で通ったわけですが、消費税の増税を行なっても、財政再建は行えないという野口悠紀雄教授のシミュレーションを思い出します。増税分で政府が実質使える金額は非常に少ないという試算でした。医療・介護・年金などの社会保障費は毎年1兆円ずつ増え続けます。しかも本来は子育てにもっと日本は投資すべきだということを考えると、日本は社会保障制度にしても、政府の仕事のあり方も、抜本的な発想の転換が求められているということでしょう。
消費税率の引き上げで財政再建ができるか?|野口悠紀雄の「経済大転換論」|ダイヤモンド・オンライン :

さて、消費税増税で家計への影響を試算した記事をよく見るようになりました。第一生命経済研究所の試算では、「夫婦のどちらかが働く子ども2人の標準世帯で、年収が500万~550万円だと、消費税率が8%になった段階で年7万2948円、10%だと11万9369円も現在より負担が増える」としています。
【消費税増税】年収500万円世帯で年12万円の負担増 さらに保険増額など家計圧迫+(1/2ページ) – MSN産経ニュース :
大和総研は、今年6月からの住民税の年少扶養控除の廃止や子ども手当の減額なども含めると消費税10%でおよそ31万円の可処分所得の目減りが起こると試算しています。
「消費税増税、暮らしどうなる 標準世帯で31万円の負担増」:イザ! :
テレビの報道番組などでは、大和総研の試算を使っているところをよく見かけます。

増税による負担増への警戒感が大きいようで、毎日新聞が行った世論調査では、消費税が引き上げられたら、「暮らしに影響する」と答えた人は「大いに」(47%)と「ある程度」(45% )を合わせ、計92%に達したとしています。
本社世論調査:消費増税「暮らしに影響」9割- 毎日jp(毎日新聞) :

しかし実際には、家計が額面通りに負担することにはならないと思います。消費税の増税を消費者負担にできるほど、世の中は甘くありません。実際には、消費税の増税分を価格に上乗せできず、結局は売り手が負担せざるをえないということがかなり広範囲の分野で起こってくることになるものと思います。

ブランドが効かず、価格で選ばれるコモディティ化した商品やサービスほど価格への転嫁が難しくなってきます。多くのコモディティ商品を扱っている量販店は、それでなくとも価格競争が激しいので、仕入れでは消費税増加分を負担し、販売価格も消費税増税分を下げざるをえなくなってくるのです。

ところが、スーパーや量販店の営業利益は消費税アップ分を吸収するほど大きくはありません。たとえば日本最大の売上高を誇るイオンの前期の営業利益はかなり改善されたとはいえ、それでも3.8%でした。家電量販最大のヤマダ電機でも営業利益率は4.8%に過ぎません。消費税が3%とか5%あがるともう利益はでなくなってしまいます。もちろん露骨にはやらないにしても、納入メーカーに納入価格の引き下げを求めてきます。しかしそれにも限界があります。

さて、消費税率の高い欧米ではなにが起こったでしょうか。価値革命です。同じ品質ならより低価格で売る仕組みの進化です。PB(プライベート・ブランド)の占める比率が日本と比べてかなり高く、40%程度というのが珍しくないのもそのひとつの例です。

つまり、企業はより低価格で、しかもより高利益なビジネスの仕組みづくり、またマーケティングに向かって動き始めます。ただ、それは消費者物価をさらに押し下げる圧力ともなってきます。

住宅もそうです。住宅は基本的には余っているので供給過多です。消費税増税前の駆け込み需要は発生しますが、その反動はかならずやってきます。需要が冷え込んで、消費税増税分をそっくり消費者に負担してもらうことは難しいのです。つまり住宅価格も下がります。なにか発想を変えないと需要は掘り起こせません。

では、消費税が高く、しかも価格への転嫁も難しい欧米の小売業と日本の小売業では、どちらのほうが営業利益率が高いかというと欧米のほうです。仕入れや物流の仕組みがはるかに合理化されているからです。

おそらく、消費税増税は、効率の悪いビジネスにとっては厳しく、小売業にかぎらず、淘汰の嵐に見まわれ、合併吸収もさらに加速してくるものと思います。それが日本の産業の効率化を促進すれば吉となりますが、そのダメージで倒産などが増えれば凶となってきます。おそらく両方が同時に進行してくるのではないでしょうか。

国内産業にとっては、厳しい試練となってくるものと思いますが、いずれ通過しなければならない課題だと思います。でなければ、消費が落ち込むばかりとなり、より効率化された海外資本にやがて飲み込まれることにもなりかねません。

日本の経済にとってはさらにデフレが進むことになりますが、より付加価値の高いビジネスに企業を向かわせることにもなってきます。それで実際にはどこに着地していくのかは誰にもわかりません。

ただ、なかなか変革が進まなかった日本のビジネスを化けさせるいい機会にもなってくるのではないでしょうか。商品やサービスの価値を高めることにもっと世の中が向かっていくことで、日本そのものが変わっていくことを期待したいものです。