朝日新聞の伝える所では、丹羽・中国大使交代へ 後任は西宮・外務審議官との事である。
野田内閣は丹羽宇一郎駐中国大使(73)を今秋交代させ、後任に外務省の西宮伸一外務審議官(60)を起用する。民主党政権の「脱官僚」の目玉だった中国大使の民間起用は1代で終わる。
この更迭劇は、今後の日本外交に大きな禍根を残す事になるのではないか?
丹羽大使は何も自分から手を挙げて中国大使に就任された訳ではない。民主党から請われての大使就任と記憶している。
ケチの就き始めは一昨年の「尖閣問題」であった。それにしても、この問題の対応に当った当時の民主党政権の中枢、菅前首相、仙谷官房長官そして前原外相は、「尖閣問題」に係る過去の歴史を何も知らず、典型的な「外交音痴」であり、問題を只管に悪化させただけであった。
丹羽大使が本来頼みとすべき前原外相は無能で役に立たず、且つ、「一発芸」、「瞬間芸」で国民の人気を得る事にしか興味がない。
一方、丹羽大使を本来身内として支えるべき外務省職員は本当に職責を全うしたのであろうか?飽く迄推測であるが、彼らのトップが、行き成り民間企業から落下傘で降下してきたと言う事実を素直に受け入れたとは思えない。丹羽大使はきっと四面楚歌の状況であったと思う。
本来責任を負うべき政府関係者が誰も責任を取らず、民間から招聘した大使を解任し、自民党時代の問題山積のシステムに戻し、外務省のプロパーを新任大使に任命するのは、矢張り、かなりの後遺症が出ると思う。
先ず第一は、今後大使就任を請われても民間人は誰も応じないだろうと言う事である。外務省が人材の宝庫であれば何も心配する事はない。しかしながら、事実は真逆なのではないか?
外務省に見る小さな政府の欺瞞で説明した通り、ODAの如き実務の伴う業務は仕事の全てを商社やコンサルタントに丸投げし、手柄のみをちゃっかり横取りしている。
彼らが普段何をやっているかと言えば、ワインの飲み比べの様な「文化交流会」である。私が常々感じるのは、外務省職員は現在の「平安貴族」であると言う事である。これでは、尖閣や竹島と言った乱時には、ものの役に立たない。
今一つの弊害は、大使就任に於いて外部人材との競合が無くなれば、職員の意識が内向き化して、結果、国益を損なう事になるであろう事実である。
チャイナスクールで出世しようと思えば、千切れんばかりに中国政府に尻尾を振り続け、中国政府から「友好的」であるとのお墨付きを貰う事が大事である。勿論これは、大使就任時のアグレマン(認証)に直結する。こんな外交官ばかりとなれば国益を毀損する事は確実である。
私事で恐縮であるが、私は1990年から1995年迄の5年間中国市場を担当し、大体月一回位のペースで現地に出張した経験がある。
一週間程契約交渉を継続し、苦労して漸く契約条件が合意に達したと思うと、「契約金額」の値引き、付帯条件である、「受け入れ研修生人数」の倍増とか要求されたものである。
断ると、必ず言われたのが、山口先生は中国に対し「非友好的」であると言う言葉であった。ビジネスマンであれば、中国から「非友好的」のスタンプを押され、例え出入り禁止になっても他のマーケットで頑張れば良いだけの話である。※注:「先生」は英語のMr.に相当
しかしながら、チャイナスクールに身を置く外交官であれば、これは外交官としての将来の喪失を意味するのではないか?
さて、結論に取りかからねばならない。
先ず、ODAの様な具体的な業務で「民活」は正しい選択と考えている。しかしながら、外務省や在外公館が手柄を横取りするのは問題と思う。第一に、役所綱紀のタガが外れる。外交機密費の不正流用の根源はここにあると思う。
今一つは、今回の丹羽・中国大使更迭に依り、民間からの大使就任の道が途絶えてしまい、結果、相手国政府の「ポチ」、「忠犬ハチ公」に堕したプロパー外交官のみに限定され、国益の毀損に直結する。
こういった事は、一定以上の知識と問題意識を持つ国民であれば必ず抱くであろう疑問である。野田政権は国民に向き合い、きちんと説明する必要がある。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役