小泉政権の頃、日中関係は冷え切っていた。毎年、小泉首相は靖国神社を参拝した。報復措置として中国政府はトップ会談を拒否するなど強硬な姿勢をとり続けた。民間人も中国各地で反日デモを繰り返した。
当然、中国人は小泉純一郎が大嫌いなのだろう。多くの日本人はそう思っているのではないか。しかし、意外なことに、中国では小泉氏を高く評価する声も多い(特に若者)。
1.小泉純一郎に対する憧れ
「中国人が憧れる日本人」についての調査をみてみよう(参考:「あなたが憧れる日本の有名人(PDF)」(公表時期:2011年5月、調査対象:中国3大都市(北京、上海、広州)の20~30代男女))。
この調査で小泉元首相は堂々の7位である。政治家としては唯一のランクインだ。
小泉氏以外にランクインした日本人は、タレント(酒井法子、木村拓哉など)や歌手(浜崎あゆみ、宇多田ヒカルなど)で占められている。タレントや歌手に若者が憧れるのは理解しやすい。若者がドラマ・映画の役柄や歌に共感しやすいのは中国に限らず万国共通のことだろう。
しかし、小泉氏はタレントや歌手ではない。政治家であり、中国と鋭く対立していた。それにもかかわらず、中国人にとって憧れの対象になっている。実に不思議だ。しかも、調査の実施時点(2011年)では首相退任から何年も経過しており、通常であれば影が薄いはずだ。それでもランキング入りしているのは、小泉氏がそれほど深い印象を中国の若者に与えたからだろう。
2.評価される理由
なぜ中国の若者は小泉純一郎を高く評価するのだろうか。ある中国の若者が小泉氏の魅力について三つの点を挙げている(参考:「DIAMOND Onilne特別レポート」(2012年5月))。
(1)(中国の圧力に屈しないなど)強力なリーダーシップがあること
(2)自分の意見を持っていて人目を気にせず、自分の意見をはっきりと口に出すこと
(3)これぞと思う案件には、徹底的に白黒をはっきりつけること
日本国内での小泉人気の理由とほぼ同じ点を挙げている。
中国と外交問題で対立した「日本の総理大臣」としてみれば、小泉氏が嫌いという中国人は多いだろう。しかし、小泉氏を一人の政治家・リーダーとして客観的に評価すると全く別の感情も出てくるようだ。「敵ながら尊敬できる」という冷静な評価である。
3.小泉人気の教訓
中国にも小泉元首相を高く評価する人が一定数いる。このことは、我が国が中国と交わる際の「あるべき姿」を示しているのではないか。「評価されている」「憧れられている」ということは、言い換えれば、中国にとって「相手にすると手ごわい人物」とも考えられるからだ。
我々に必要なのは、日本に理があると思ったことを正々堂々と主張し、行動し続けることではないか。愚直に「言うべきことは言う、やるべきことはやる」という態度をとり続ける。そうして、「芯がある」という小泉元総理のような評価を長期的に蓄積していく。この評価こそが日中間の様々な利害交渉の際、日本にとって強力な武器になるはずだ。
もちろん、このような態度をとれば、短期的には摩擦が激しくなる局面もあるだろう。しかし、短期的な騒ぎを治めるために安易な妥協をしてはいけない。「芯のない行動をとるような尊敬に値しない人(政府)」と本気で交渉する人(政府)はいるだろうか。答えはノーだ。ハイボールを投げつけられたり、ゴネまくられるだけで、まともな交渉は始まらない(しかし、現状はこうなっていないか?)。
当たり前だし、地道なやり方で気が遠くなるが、中国とうまく渡り合うには「簡単に妥協する相手ではない」という評判を積み上げていくしかない。中国における小泉元首相の意外な人気からこんなことを考えた。
高橋 正人(@mstakah)