ウォール街を選挙せよデモなど、世界は一部の富裕層に搾取されていると叫んでいる人は多い。しかし、それは事実に反している。多国籍企業が途上国で安くモノを作って、先進国で安く売ることによって、途上国に職がもたらされ、先進国では安くモノが買えて豊かになるのだ。また、そうした多国籍企業等に、国境を超えたファイナンスを提供する金融機関が適切なマージンを確保することは、なんら悪いことではない。実際に、富めるものがもっと富むことによって、貧しい者にも自然に富が浸透(トリクルダウン)するのだ。このトリクルダウン理論を否定する人も多いが、統計データは確かにトリクルダウンがあったことを証明している。
下の図は、アメリカのTop1%と、Bottom99%の平均家計所得の推移をプロットしたものである。データは税引き前の所得である。
アメリカのTop 1%とBottom 99%の平均家計所得
出所: US Congressional Budget Officeの資料より筆者作成
1980年から2005年までの間に、確かにTop1%の富裕層は大きく家計所得を伸ばし、2005年には160万ドル(当時のレートで1億8000万円程度)だが、99%の方も7万ドルもあった。そしてデータのある範囲で、確かにTop1%は220%も伸びており、年率で約8.4%もの伸び率であった。しかし、グラフではあまりよく見えないが、Bottom99%も1980年~2005年の間に31%、年率で1.2%も上昇しているのだ。確かに、富裕層はますます金持ちになったが、それ以外も少しずつ金持ちになっていったのだ。
グローバル化は現実であり、それに抗っても国全体が貧しくなっていくだけだ。確かにグローバル化とIT革命は、突出した企業や個人により多くの富をもたらしているが、トリクルダウン理論により、多くの国民にも恩恵があるのだ。グローバル化に抵抗してみんなで貧しくなるか、あるいは積極的にグローバル化の波に乗って、富裕層をもっと金持ちにして、多くの国民もわずかに豊かにするか。このふたつの選択肢しかないのだから、後者の方がいいことは明らかだ。