もう朝日新聞に逃げ場はない

池田 信夫

慰安婦問題で逃げ回っていた朝日新聞が、やっと社説を出した。

見過ごせないのは、松原仁・国家公安委員長や安倍晋三元首相ら一部の政治家から、1993年の河野官房長官談話の見直しを求める声が出ていることである。

河野談話は、様々な資料や証言をもとに、慰安所の設置や慰安婦の管理などで幅広く軍の関与を認め、日本政府として「おわびと反省」を表明した。多くの女性が心身の自由を侵害され、名誉と尊厳を踏みにじられたことは否定しようのない事実なのである。

松原氏らは、強制連行を示す資料が確認されないことを見直しの理由に挙げる。枝を見て幹を見ない態度と言うほかない。


韓国政府が攻撃しているのは「軍の関与」ではない。それは日本政府が最初から認めている。彼らは日本政府が「強制連行」を認めないと攻撃しているのだから、それがあったかどうかは「枝」ではなく「幹」の問題である。しかも朝日新聞が1992年1月11日の記事では「太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した」と書き、これが韓国の攻撃の根拠になっている。

朝日新聞は、「強制連行」が誤報だったことを実質的に認めているのだ。しかし今さら間違いを認めると社長の責任問題に発展するので、それはどうでもよい枝の問題だと開き直っている。これは2007年に強制連行についての閣議決定が行なわれたときも、朝日新聞の使った逃げ口上だ。

この閣議決定では「調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」と明確に強制連行を否定しており、「官憲等が直接これに加担した」という河野談話とは矛盾する。松原氏などが主張しているのも、閣議決定にそって(閣議決定されていない)河野談話を見直すという当然のことだ。

要するに、強制連行の有無こそ唯一の争点なのだ。もう逃げ場はない。まず朝日新聞が、慰安婦に関する一連の記事について訂正し、官憲による強制連行がなかったことを明記することが、こじれた日韓関係を解きほぐす出発点だ。それが枝の問題か幹の問題かは、日韓両国の政府と国民が判断すればよい。

追記:2面の記事では「慰安婦とは、戦時中、日本の植民地支配下にあった朝鮮半島などから中国大陸や南方の戦地に送られ、軍人の性の相手をさせられた女性たちだ」となっており、「強制連行」も「挺身隊」も消えている。恥の上塗りはやめて、きちんと訂正して謝罪すべきだ。