毎日新聞の伝える所では、<尖閣諸島>中国、日本批判強めるとの事である。
沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)を巡り、日本政府と地権者が売買契約を結び国有化することで合意したことについて、中国側は「必要な措置を取る」と述べ、これまでより日本側への批判のトーンを強めた。10年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の際、中国は日本との交流事業の停止や、レアアース輸出の中断などの措置を取った。今後の日本の出方次第では、再び何らかの行動を起こす可能性もあるとみられる。
中国国内の不満分子に「日本に対し弱腰」等と騒がれ、中国全土に騒ぎが飛び火するのは権力移行期にある中国としては是非とも避けたい所であり、かかるコメントの出て来る背景と推察する。
それにしても、日中間で何時迄もこんな壁打ちテニスの様な事を続けるのも如何なものであろう?
尖閣は日本が実効支配しており、国民が所有しようが、東京都が所有しようが、或いは政府が所有しようが、肝心の点は「きちんと防衛する」と言う一点に尽きると思う。従って、尖閣の所有者を巡る一連のドタバタは中国側を刺激するだけであり、何か殊更の意味があるとは思えない。
政府やマスコミは尖閣に捉われ過ぎて、視野狭窄に陥っていると危惧する。一度、頭を冷し中国全体を俯瞰し日本を直撃するであろうリスクの本質を見極め、対応を考えるべきステージに来ていると思うのである。
注視すべき先ず第一は、中国国内鉄道貨物輸送量が急落している状況である。本来、港から原料や部品を満載して工場に向かう貨車や、製品を工場から輸出港に輸送する貨車の扱い量が激減しているのである。
不景気で工場の操業が随分と減少したり、廃業したりしているに違いない。やがては、金融機関の不良債権問題や、失業に伴う社会問題に飛び火するのは必然である。
第二は、中国からの莫大な資金流出とその背景である。ブルームバーグの伝える所では、中国:1500社余りの外為サービス利用を停止-資本流出対策かとの事である。
野村ホールディングスの中国担当チーフエコノミスト、張智威氏(香港在勤)は電話取材に対し、「資本流出が最近かなり激しいため、抜け穴をふさぐ対策の一環かもしれない」と述べた。中国は4-6月期の資本収支が714億ドル(約5兆6000億円)の赤字となり、1998年からの統計で最大の四半期赤字を記録した。
評論家は今後色んな講釈を垂れるであろうが、それにしても僅か三ヶ月で714億ドルの資本収支赤字とはただ事ではない。まるで、沈没する船から鼠が逃げる様に資金が中国から逃亡しているのである。
勿論、日本政府や日本企業が懸念すべきは中国が沈む船か否かと言う点である。
最後は、今朝のBBCがBo Xilai scandal: Ex-police chief Wang Lijun chargedと伝える、中国国内の権力闘争である。下馬評の通り、胡錦濤国家主席がこの事件の処理を通じて反対勢力を一掃し、更に権力基盤を強固にした上で後任の習近平氏に権力を継承する事になるのか予断を許さない。勿論、今後の日中外交に大きなインパクトを与える事になる。
尖閣の様な領土問題を除けば、所詮、海の向こうの中国の問題と気楽に考えておられる方も多いと思う。しかしながら、既に日本企業にも大きな影響が出ているのである。
一例を挙げれば総合商社の業績と株価の推移である。ここ数年中国企業は石炭や鉄鉱石を爆食して来た。結果、価格が暴騰し、総合商社は軒並み扱いを増やし取扱い手数料を大きく伸ばすと共に、出資に伴う莫大な利潤を謳歌して来た。
しかしながら、最早時計の針は逆回りをしている。それを示すのが業界のリーディングカンパニー、三菱商事の株価である。綺麗な右肩下がりで今日も年初来安値を付けている。
総合商社の不振は一例に過ぎない。中国の変調は日本の政治、経済を直撃する。従って、何時までも尖閣のみに拘泥するのではなく、中国が今如何なる状況にあり、年末に向かいどう推移するのかを冷徹に精査する必要がある。そして、最悪のケースに備え対策を講じなければならないのである。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役