ECBに依る債務問題に苦しむ南欧諸国の国債買い取り報道を市場は好感し、結果、ユーロ高、南欧国債利回り低下、株価上昇と言った世界に取って好ましいものとなった。しかしながら、これで問題解決とは行かない。
抜本解決の為には、問題国が歳出の大幅削減に舵を切り「歳出」と「歳入」を少なくともバランスさせる必要がある訳だが、景気を冷やし失業を増やす可能性が高く、実行は口で言う程簡単ではない。
今一つは、金融機関が抱える不良債権問題である。これも、歳出削減に依り景気が下降すれば増加し雪だるまの様に、当面増え続ける可能性が高い。
ギリシャ、イタリア、スペインは大幅な歳出削減に取り組みながら、景気を冷やさず、雇用を維持し、不慮債権の更なる増加を防ぐと言う「ミラクル」をやらねばならない訳である。
率直に言って、「それが出来る様な有能な政府であれば、こんな事になっていない」と言うのが、私の印象である。
更に根本的な問題として、資金面でECBを支えなければならないドイツが終始一貫今回の決定に否定的な事である。経営再建中の企業のリストラ案にメインバンクが反対していると言った所であろうか?
ドイツを代表する高級誌、Spiegelは何と昨日の誌面で、‘The ECB Is Doing Governments’ Dirty Work’=ECBは政府の汚い仕事をやっている、と吐き捨てている。
Spiegel及びSpiegelが引用するドイツ有力紙の記事の「肝」の部分ををそのまま参照してみる。
Spiegel:Bundesbank President Weidmann reiterated his opposition to the move, saying it was too close to “state financing via the money presses.” Alexander Dobrindt, general secretary of Bavaria’s conservative Christian Social Union, said that the ECB must be “a stability bank and not an inflation bank”.
ドイツ連邦銀行総裁のWeidmann氏は債務問題国への融資に近過ぎるとの従来の反対意見を繰り返した。保守的なバイエルンキリスト社会同盟局長のAlexander Dobrindt氏はECBはインフレ喚起の銀行であってはならず、金融安定の為の銀行であるべきと主張した。
中道左派南ドイツ新聞:The ECB can still turn back. This is precisely why the persistent protests by Bundesbank President Weidmann are important. In the end — and this is something Mario Draghi also knows — the euro cannot be saved if Germany, the most important economy in Europe, doesn’t want to play along. The ECB and the other parties who are in favor of an unconditional rescue should not drive the German people to the barricades in the interests of Europe. But they are close to doing just that.”
ECBは未だ後戻り可能である。それ故、抗議を継続しているドイツ連邦銀行総裁Weidmann氏の存在が重要と言う事になる。Mario Draghiも理解している様に経済に関し欧州最重要国であるドイツの同意が無ければユーロを救う事は不可能である。債務問題国への無条件支援を希望するあらゆる団体はドイツ国民を欧州の利益の為のバリケードにしてはならない。しかし、やりかねない状況である。
中道右派フランクフルタ―アルゲマイネ紙:”The leaders of southern euro-zone countries should be happy: They can continue to borrow at low interest rates and do not need to worry about finding investors. But the northern leaders are satisfied, too, because they can hide behind the ECB and do not need to face uncomfortable questions in, say, the Bundestag (Germany’s parliament) about all the additional risks that Germany is taking on. In the euro zone, there is no longer a distinction between monetary and fiscal policy.”
南欧州の指導者は幸せになるに違いない。今後、低金利での資金調達が可能となり投資家を探す必要もなくなる。同様、北欧州(ドイツ)の指導者達もECB の陰に隠れる事で幸せになる。今後、ドイツ議会でドイツが欧州で負担する追加リスクに関する不愉快な質問を受ける事が無くなるからである。「金融」と「財政」の境が最早存在しない。
保守、Die Welt紙:”The dangers of this policy are enormous. At the moment, it’s not inflation that is the big problem. Rather, it is the redistribution of wealth from the north to the south in a completely non-transparent way and without political legitimacy. (The money is flowing) from the savers to those who benefit from this irresponsible monetary policy. This is undemocratic and antisocial.”
この方針(※注:アウトライト取引)は危険である。今現在インフレは大きな問題ではない。それよりも問題なのは、何ら「透明性」や「政治的正当性」が担保されず、北(※注:ドイツ)から南(※注:ギリシャ、イタリア、スペイン)に富が還流して行く事である。ドイツ預金者の金がかかる無責任な金融政策の受益者へと流れて行く。非民主的であり、反社会的行為である。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役