楽天は出版を儲かるビジネスだと勘違いしてないか?

田代 真人

楽天のRabooサービスが2013年3月31日をもって終了する。コンテンツの販売は、2013年1月22日までだ。これに関しては、なんの感慨もないのだが、ちょっと早すぎやしないか?という感想はある。昨年8月に開始して、わずか18か月でバンザイってのもどうかと思う。大手電子書籍販売会社でサービス終了というのは初めてじゃないだろうか。


まぁ、当初から、端末の魅力がいまいちだったし、うまくいくような気がしなかったのも確かだ。しかし、しかしである。そう簡単に辞めるかね? 出版になにを期待していたのだろうか。まさか、まさか、1年くらいで黒字化するとでも三木谷さんは思っていたのだろうか? 私がアゴラブックス立ち上げに参画したときも、うまくいくのは5年後くらいかな? と役員連中と話しながらだった。

いまだって大変だ。資金力もないので、少しずつオリジナルを出しては、絶版本も電子化し、いまもって電子書籍の制作・販売のほかにもなにかしらできることがあるはずだと模索もしている。それは電子書籍が花開くまで続くことだろう。ただ、次なる出版にかけていることもたしかだ。

「気概」なんていうとITベンチャーの方々に笑われるかもしれないが、たとえ電子書籍であっても出版人としての気概をもって運営してほしいと思うのだ。
「儲かりそうだから始めた」「儲からなかったからやめた」では、あまりに軽率ではなかろうか。いま流行りの“ピポット戦略”という考え方なのだろうが、多くの人を巻き込んだ割りにはあっさりとやめるものである。

そもそもいまの出版社は、Web2.0になぞらえていえば、まだまだ“出版1.0”である。昔々にできたビジネスモデルを変え切れていない。これがバージョンアップするには、出版社が変わらなければならないこともさることながら、著者も変わらなければならない。なぜならば電子出版に初版印税はないから。とりあえず出版すれば、発行翌月に数十万円が振り込まれる紙の出版とは違うのだ。

出版社はいまのように紙書籍の電子化ではなく、持てるコンテンツを新たな電子コンテンツへと変貌させる電子コンテンツの開発をおこなわなければならない。これは既存の大手出版社でもできることだ。いや多くの著者含めネットワークがあるからこそそれはできる。

では著者はどう変わるのか? この場合、いまの著者自身が変わるという意味ではない。いま現在、紙の出版社で発行できる力があるのなら、そのまま紙の書籍を発行すればよい。初版印税ももらえばいい。

ではなにを変えるのか? そう、いまの“著者1.0”がバージョンアップする必要はない。著者を替えるのだ。次なる著者の卵に期待したいのだ。初版印税はないが、だれでも簡単に出版できるのが電子書籍。

であれば、それは、YouTubeみたいなもので、「書いてみた」で電子書籍を発行すればいい。人気になれば、既存の紙の出版社が声をかけてくるだろう。ジャスティン・ビーバーのように。スーザン・ボイルのように。最近では、日本でもシンデレラ・ストーリーが生まれた。GILLEだ。彼女も今年メジャーデビューを果たした。

そのようなプラットフォームで期待できるのは今年日本でもキンドルのサービスを開始するというアマゾンだ。アマゾンはアメリカですでに始めている個人出版サービス「キンドル・ダイレクト・パブリッシング(KDP:Kindle Direct Publishing)」というサービスも同時に開始されると思われる。アマチュアも自由に自分の本を販売できるようになるのだ。

すでにアメリカではKDPでヒット作を出した著者が紙の出版社に声をかけられ紙書籍での発行が決まったという事例も出てきている。そうすれば、いまと同じ規模を維持できるかどうかはわからないが、既存の出版社とも電子書籍は共存できるのだ。

楽天が買収したkoboにも個人出版サービスがあるという。三木谷さん、数年は儲からないかもしれないが、ぜひとも歯を食いしばってkoboをRabooの二の舞にしないでいただきたい。

田代真人(編集執筆者・マイ・カウンセラー代表)