モラルハザードとは、損失のリスクをどこかに押し付けることにより自らはリスクを取れば取るほど儲かるようになることを表す金融用語である。リーマン・ショック以降、次々と欧米の金融機関が税金で救済され、それにもかかわらずいままで受け取っていた高額の報酬を返上する必要もなく、その上、救済された後にもこういった金融機関の経営者は高額な報酬を受け取り続けていた。大きすぎてつぶせない金融機関は、リスクを取って儲ければ自分のものだし、損をしたら、その損は国民のものなのである。当然のように、バブルに浮かれて無責任な経営をしていた欧米の金融機関は、きびしい批難にさらされている。しかし、我が国の銀行はどうだろうか? 今日はそのことを考えてみよう。
欧米の投資銀行は、短期金融市場で調達した資金を使い(通常は短期の方が金利が安い)、CDOなどの流動性のとぼしい資産(その分利回りがいい)を大量に抱えていた。こういった短期資金は、金利が安い代わりに、当然だが満期が早く来るので次々と借り換えていかないといけない。だから、信用不安が起きてスムースに借り換えができないと、一気に経営破綻に追い込まれるわけである。このような破綻リスクを取り、欧米の投資銀行は儲けていたわけであるが、その破綻リスクが現実のものになると、それはそっくりそのまま国民の税金で負担されることになったのだ。
我が国の銀行も、じつはまったく同じ構造をしている。それはさらに短期の資金、すなわち国民の普通預金を使って、長期の債券である日本国債を買っているのだ。欧米の投資銀行は短期金融市場で資金調達していたのだが、それは邦銀の場合は国民の預金になっているのだ。そして、欧米の投資銀行がCDOなどの資産を買っていたのだが、それは邦銀の場合は日本国債になっている。よって、欧米の投資銀行が破綻したのと同様の理由で破綻する可能性がある。
邦銀は国民の預金に対してはほぼゼロの金利しか払っていないのだから、その金で国債を買えば毎年1%程度が自動的に儲かるわけだ。国債のリスクというのは、国が事実上の財政破綻をすることなのだが、日本が財政破綻をした場合に、その損失を負担するのはおそらく邦銀ではない。会計ルールが恣意的に変わる、日銀によるマネタイゼーション(インフレによる私有財産への強制的な課税)、直接的な公的資金の注入などが行われるだろう。つまり、なにもない時は邦銀は金利差で儲けるが、その儲けの源泉である破綻リスクが実現した時には、その請求書を国民に送りつけることになっているのだ。まさにモラルハザードの極地である。
そもそも国民は日本国債を買いたかったら自分で買えるのであり、邦銀に預金を使って買ってもらわなくてもいいのである。そしてそのほうが銀行員の給料を抜かれなくても済むので国民の利益にもなる。銀行ライセンスを与えられ、さまざまな特権を与えられた銀行は、まず銀行にしかできない金融業務に専念するべきなのだ。ほとんどゼロの金利で集めた預金で国債を買う、窓口販売で胡散臭い金融商品を知識の乏しいお年寄りに売る、などの業務ばかりやっている邦銀には、すでに存在意義はないといえよう。