日銀の外債購入は意味があるか

池田 信夫

ロイターによると、前原経財相は日銀の外債購入のために日銀法改正を検討するという。「日銀がインフレ率1%を政府と協調しながら、早期に実現することが大事だ。日銀による外債購入についても、金融緩和の手段としてとり得る」という彼の話は間違っている。


まず外債の購入は金融緩和ではなく、為替介入である。いま財務省の行なっている介入では、米国債などを買う。実際のオペレーションでは日銀が買っているので、違いはそれを外為特別会計ではなく日銀勘定でやるだけだ。問題は日銀法で外債購入ができるかどうかではなく(法解釈によっては今でも可能)、その効果があるかどうかだ。

日銀が外債を買ってベースマネーを増やすと、円安になるだろうか。日米のベースマネー比率と為替レートの関係を示す「ソロス・チャート」を見ると、図のように両者は2000年ごろまではパラレルに動いていたが、2000年代にはバラバラだ。

この原因は、日本経済が流動性の罠に陥ったからだ。金利がゼロに貼りついた状態では、日銀がベースマネーを増やしても名目金利は下がらない。このとき考えられるのはインフレ率を上げて実質金利を下げることだが、それには次の3つの方法がある:

  1. 時間軸政策:日銀が長期的に緩和姿勢を持続することにコミットして予想インフレ率を高める

  2. リスク資産の購入:日銀が長期国債や社債などを買って長期金利を引き下げる
  3. 円安誘導:財務省が為替介入でドルを引き上げ、輸入物価を上げる

このうち1は無害だが効果が少なく、2は効果があるが大量に購入することは財政政策なので、副作用も大きい。3は短期的には効果があるが、政府が大きな為替リスクを取るためには、国会の承認が必要だ。

日銀の外債購入は3と同じだが、これは財政政策なので日銀が大量にやることには問題が多い。財務省の介入資金としては外為特別会計があるが、日銀は独立採算なので、大きな為替差損が出た場合には一般会計から補填しなければならないからだ。

為替介入で市場に出る円資金を回収しない非不胎化介入をすべきだという話がよくある。高橋洋一氏は日銀が外債を購入すれば非不胎化介入になって緩和効果があると言っているが、これは嘘だ。流動性の罠では為替介入でマネーストックは増えないので、すべての為替介入は不胎化介入だからである。それは上の図で、日銀が激しく量的緩和をやった2000年代前半に円高になっているのをみても明らかだ。

要するに日銀の外債購入とは為替介入を日銀がやるだけのことで、短期的には円安効果があるが、長期的にその水準を維持するには莫大な資金が必要だ。税金を元手に数十兆円の博打を打つのは、賢明な経済政策とはいえない。これを理解できない政治家や自称エコノミストが、いつまでも下らない日銀バッシングをしているが、前原氏も基本的なマクロ経済学の勉強ぐらいしてほしいものだ。