世界で孤立する米国FEDを支持する日本のメディアと評論家

小幡 績

Financial Times でもロイターでも、トップの記事になっていたが、米国FRB議長バーナンキが新興国の立場を代表して、ブラジル蔵相から受けた批判に反論した。

FTの方はリンクが変わってしまいそうだが、5:03pmの
 Fed chief rounds on stimulus critics  
US stimulus ‘good for global economy’, says Bernanke
という見出しの記事だ。

実は米国のいわゆる量的緩和を本音で支持している中央銀行は、米国自身以外にはない。さらにいえば、FEDの中でも強い批判がある。

米国の無理やりな量的緩和は自国の都合だけで、世界経済にはマイナスだ、という主張だ。

日銀の白川氏は、やんわりと、中立的なスタンスで理論的に、国際的な影響を重要視しないまともな中央銀行はない、と言っているが、これが世界の主流で、世界中の中央銀行のメンバーの間では、白川氏や日銀の評価は極めて高い。

米国だけが(強いて言えば英国が唯一の支持者だ)、資産インフレを起こしうる量的緩和を行っており、プロは誰も支持していないのだ。

それなのに、日本のメディアと評論家は、米国FEDのようにできない日銀は駄目だと非難する。

いつまでたっても、舶来主義なのか。


米国FEDに対する批判は、米国の量的緩和のおかげで、資産インフレが世界に広がり、金融資産バブルがおきてしまっている。だから、これを鎮めるために、新興国は金融政策を引き締め側にバイアスをかけなければならない(あるべき金利よりも高くなってしまう)。その結果、新興国の実体経済は成長が腰折れしてしまう。さらに、金融商品化した、資源や食料が資産インフレで高騰することにより、実物財のインフレまで起きてしまい、さらに実体経済にマイナスが生じ、特に貧困層が致命的なダメージを受けることになる。こういうことだ。

バーナンキは米国経済が成長すれば、新興国にもそれは及ぶと主張するが、それは当然だが、一次的な効果と二次的な効果では、当然前者が大きく、米国は良くなるが、それ以外の国は、特に新興国は、マイナスの方が当然大きくなる。

とりわけ、金融市場が米国よりも圧倒的に小さな国では、歪が大きく、金利引き上げの歪が大きくなり、実体経済へのダメージが大きい。

しかも、米国の失業率は高いが、欧州のような危機にあるわけでなく、十分回復軌道に乗っている。また、失業もバーナンキは景気循環の失業だと捉えているが、そのほかの国や、米国のエコノミストも多数派は、構造的な失業と捉えており、金融政策でこれを回復させるのは無理があると考えている。

一点を除いて、すべてバーナンキの議論は誤っている。

バーナンキに分があるのは、米国は通貨安政策を採っているわけではないし、通貨もそれほどドル高になっているわけではない、という点だ。

通貨安戦争と言うのはまったく間違った捉え方であり、政治家はともかく(輸出業者のカネと票が必要だから)、中央銀行エコノミストは全員、自国通貨を意図的に弱くしようとはしていない。

そこだけはバーナンキが正しい。

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ただ、この話はこれで完結して、疑う余地はないのだが、この話をきっかけに、理論的な考察を深める余地があり、それはかなり興味深いため、別のところで議論することにしたい。