財政破綻するということ --- 小松原 周

アゴラ編集部

今年の6月29日、サンフランシスコから100kmほどに位置する人口29万人のストックトン市がChapter9申請を行い財政破綻したことをご存知だろうか。債務残高は約7億ドルで、市町村レベルでは過去最大の破綻となる。市場ではかなり以前からデフォルトを織り込んでいたこともあり、地方債市場への影響は軽微であったが、同市の破綻劇は、米国の自治体の多くが抱えている問題を浮き彫りにした。


大都市や観光地にもほど近く、農業が盛んで風光明媚なストックトン市は、サンフランシスコのベッドタウンとして注目され、2000年代前半に住宅建設ブームを迎えた。市側も、居住意欲を啓蒙すべく、年金・医療面で市独自の特典を付与していた(市役人は1ヶ月勤務すれば家族含めて退職後の医療費免除、市の支給する年金額は同規模の自治体の約2倍)。

しかし、その後の住宅バブル崩壊は、同市の基盤を全て吹き飛ばしてしまった。戸建住宅価格は、2005年のピークである40.7万ドルから今年2月には11.8万ドルに下落。直近2年ほどは、全米で最も差し押さえ比率の高い都市となっていた。

こうした事態に市はどう対応してきたのか。基本的には、コストカット、特に役人のレイオフと給与削減に努めた。中でも警官、消防士の削減率は、それぞれ25%、30%に上った。結果として、失業率は15%台までに上昇し、治安は悪化、殺人事件・強盗の件数も大幅に増加した。夜逃げ同然で市を出て行く住民は後を絶たず、結果として、固定資産税をはじめとする歳入が激減することになった。

金融関係者の多くは、ストックトン市は氷山の一角に過ぎず、今後、自治体の破綻が続出し、引いては全米レベルの財政にも影響を及ぼしかねないと警告している。Chapter9を申請した自治体は昨年に13件と急増し、今年も当件で7件目。現在でも、申請件数は増え続けており、ここ20年間で最大になると予想されている。

重要なのは、これらの破綻を単純に「バブル崩壊」の影響と整理することはできないということだ。破綻した自治体に共通していることは、むしろ、痛みを伴う改革を躊躇してきた政策の怠慢や確信的な不作為に原因があったと考えられる。

事実、ストックトン市政は産業基盤の強化・農業振興といった歳入強化策をほとんど行わず、膨大な負担の源泉であった年金債務や医療費負担については最後まで手付を付けられず、借金は雪だるま式に増えていった。このようなことを聞くと、どこかで似た状況にある国が思い浮かばないだろうか。そう、ギリシアやスペインだ。

自治体と国では必ずしも同じ尺度では測ることはできないが、自国内で強い産業を育成できない国の末路は、結局のところ、同じような道をたどることは歴史が証明している。マクロ環境が悪化して経済が停滞した時、強い産業基盤がある国はやがて復活するが、そうでない国は、いつまでも浮上できないままでいる。

減少する歳入に対して、先回りして効率的に歳出をカットすることは、様々な利害関係者が障害となるため難しい。主たる産業である輸出加工業の競争力が弱くなっている日本にとっても、これらは決して他人事ではないはずだ。

小松原 周(あまね)
アナリスト/ファンドマネージャー
ブログ:仙人の祈りの時間