南方熊楠が民話の聞き取り調査をしたとき、同じ話を何回も聞いて話の変わる部分はその人の作り話と判断したそうだ。真実は一つだが、嘘はたくさんあるからだ。南方の手法を上杉隆氏の弁解に適用してみよう。
上杉氏は9月22日の記事で読売新聞の記事を引用して「この小さな記事がなぜ不誠実なのか。それは、最初の前提となる情報が欠落しているからだ」と批判し、「大手メディアは海外政府による避難勧告を報じてこなかった」という。その根拠として彼が示すリストは、『国家の嘘』という著書では著者調べと書かれている。
ところが、そのリストが昨年3月19日の読売新聞の記事とまったく同じだと指摘されると、彼は10月11日の記事では、「わたしがこの情報を最初に話したのは3月16日の文化放送『吉田照美のソコダイジナトコ』」だと主張した。つまり逆に彼がラジオで話した情報を読売が著作権侵害したというのだ。
しかし上杉Wikiによれば、この日の番組で上杉氏は避難勧告について話していない。また話していたとしても、それを聞いて書いた読売の記事が上杉氏の話と全角スペースまで同じになることはありえない。「メルマガにも書いた」と主張しているが、それは3月23日であり、読売の記事は3月19日だから、この主張は成り立たない。
私がブログでこのように指摘したところ、上杉氏は【より重要なおしらせ】で、「同じリスト(同型)を上杉は少なくとも発売前までに情報提供者より入手した」という。これは明らかに「著者調べ」という以前の説明と矛盾している。
この点について読売新聞は、私の問い合わせに対して「3月19日の記事は当社の取材によるものだ。大使館のホームページを見ればわかる情報を外部から入手することはありえないし、入手した場合は必ず情報提供者のクレジットを入れる。クレジットのない記事は、すべて当社の記者が取材したものだ」と答えている。
事実は明白だ。上杉氏のいう読売新聞発売前の「情報提供者」なるものは存在しない。彼(あるいは彼のゴーストライター)が読売の著作権をメルマガで侵害したことは疑問の余地がない。彼はこれまでの嘘を謝罪し、ダイヤモンド社はこの連載を打ち切るべきだ。