最近、2012年10月にIMF(国際通貨基金)が公表した論文「女性は日本を救うことができるのか?(原題:Can Women Save Japan?)」がNHK・クローズアップ現代でも取り上げられ話題になった。
日本では少子高齢化の進展で潜在成長率が低下し始めているが、この論文では、女性の労働参加率の上昇はその影響を緩和しつつ、経済成長を促進させる可能性を秘めていると主張する。
少子高齢化は、労働人口を減少させ、それ以外の人口である従属人口(例:引退世代)を増加させるから、その比率である「従属人口指数」(=従属人口÷労働人口×100)を上昇させてしまう。しかし、女性の労働参加率が高まれば、この従属人口指数の上昇を緩和できることは明らかである。
では、女性の労働参加率の上昇は、従属人口指数の上昇をどの程度緩和することができるのか。そこで、以下では簡単に、日本女性の労働参加率が北欧並み(例:スウェーデンやデンマーク)に上昇したときの「従属人口指数」の推移を試算してみよう。
このため、まず、OECD諸国の労働参加率(2011年、男女)をみると、図表1のようになっている。スウェーデンやデンマーク等の北欧では、男性の労働参加率よりも若干5パーセント・ポイント低いものの、女性の労働参加率は80%前後の値となっている。他方、日本ではどうか。男性の労働参加率は北欧に近い85%であるが、女性の労働参加率は北欧の80%より17パーセントポイントも低い63%である。
そこで、いまから直ぐに、日本女性の労働参加率が北欧並みになったときの「従属人口指数」を試算してみると、以下の図表2のようになる。
図表をみると、その効果は一目瞭然である。現状のままでは、「従属人口指数」は2015年の97.1から2100年の118.1まで約20ポイントも上昇していく。しかし、女性の労働参加率が北欧並みになると、従属人口指数の上昇は約半分(10ポイント弱)に抑制でき、2100年の従属人口指数は104.8に留まることが予想される。
これは、出産・育児との両立を含む子育て世代の働きやすい環境整備や女性の社会的地位向上等により、もし日本女性の労働参加率を北欧並みに上昇させることができれば、長期的に少子高齢化が日本経済に及ぼすマイナスの影響を100%ではないものの、50%程度は緩和できる可能性があることを示唆する。
(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)