利益追求の動機だけではM&Aの成功は望めない --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

豊田自動織機がフォークリフト用部品大手の米カスケード社を約600億円で買収するというニュースが今週ありました。先日のソフトバンクのスプリントネクステルに続きアメリカにおいて日本企業の存在感が再び増すことになるのでしょうか? また、日立はイギリスの原発事業会社を買収することでほぼ合意に至っているようです。


思えば80年代後半、日本企業はアメリカ企業を次々と買収し、その最たるものが三菱地所によるロックフェラーの買収(当時2200億円相当)だったと思います。私が長年お世話になった青木建設は88年にウェスティンホテルを1700億円強で買収し当時、日本経済界だけでなく、世界のホテル業界をアッと言わせたのは肌身を通じてよく理解しております。

80年代後半の日本企業の買収はある意味、土地成金、株成金の「行け行けどんどん」的なところがなかったとは言い切れません。日米貿易摩擦のしこりが残る中、札束を抱えて不動産に担保されたアメリカ企業を買収し続けたのは経営をするというより所有する優越感の方が勝っていたといっても過言ではありません。

先日亡くなった青木建設の青木宏悦氏は「経営者の所有する夢は果てしない。それはレストランからゴルフ場、ホテルへと延々と続くのだ」と私に呟いたのは確かブラジルの自社所有ゴルフ場でのことだったと思います。そしてドイツ、ハンブルグの名門ホテル フィア ヤーレスツァイテン を所有していたときは氏にとって最高の時だったに違いありません。

その後、本業回帰、脱海外事業が金融機関の号令の下で着々と進められ、それが20年を越えた今、新たなサイクルに入ろうとしているようにも思えます。

当時なぜ金融機関が脱海外事業を推し進めたかといえば単刀直入に「海外で儲けられなかった」ことに尽きると思います。勿論、ブリヂストンのファイアストン買収のように成功した例もありますが、あの買収も社長がオハイオのファイアストン本社に常駐し、日本には出張するという離れ業とパッションが成功をもたらせたのであって多くのアメリカに進出した日本企業は敗退や縮小を余儀なくさせられたのです。

その後、20年の間に日本企業によるアメリカ進出がなかったわけではありません。が、私から見ればNTTドコモが2001年にAT&Tワイヤレスに1兆円以上投じ結局敗退する結果を見て日本企業にはやはりアメリカ進出は無理なのかと感じさせたのを覚えています。それ以外にも野村のリーマンブラザーズのヨーロッパ拠点の買収などは失敗の好例だと思います。

その理由のひとつとして買収後に被買収企業となじめなかったということではないでしょうか? 買収は相手先の企業文化、民族、社会習慣を大いに理解したうえでどんなブラッドの注ぎ込むのが良いのか熟考しなくてはいけないのです。強姦ではいけないということです。

往々にして日本企業は海外で数字だけを追う癖があるような気がします。その会社を育てるというよりまるで機関投資家がリターンだけの追求をしている感すらないとも言い切れません。相乗効果を求め、一体化してこそ、3倍も5倍もの力となるはずです。

今回、この円高を利用して日本企業のアメリカなど先進国への再進出があるとすれば、それは過去の過ちを繰り返すのではなく、共同経営を通じてより一緒に成長する夢をシェアすることが重要ではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年10月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。