鬼よりコワい新規上場直前の「投書」爆弾 --- 山口 利昭

アゴラ編集部

先日、当ブログのエントリー「社長の一言が企業価値を毀損してしまう可能性」でも取り上げましたZOZOTOWN運営会社であるスタートトゥデイ社が、なんと商品配送手数料を無料にすることを決めた、と報じられています。日経新聞の同社社長インタビューでも「心を入れ替えて生まれ変わる」とのお言葉。たいへんビックリいたしました。社長さんが「生まれ変わる」気持ちになれば、会社も生まれ変われるのでしょうか? 11月1日の同社の株価がどうなるのか、とても楽しみであります。


さて、社長さんが「リスタート・トゥデイ」ということで、生まれ変わる気持ちになったとしても、かならずしも会社はキレイな状態に生まれ変われるものではないことを、本日某研究会における公認会計士さんのご講話にて改めて認識いたしました。本日、これまで数々のIPO(新規株式公開)に携わってこられた某著名会計士の方のご講話を拝聴する機会がございまして、「上場して経営がうまくいく会社と、そうでない会社はここが違う」という、とても興味深い内容でありました。上場後も、その会計士の方が責任者となって会計監査に従事されることも多かったようですから、かなり公認会計士のお仕事としてはリスキーな面もあるようです。とりわけオーナー社長さんの場合、監査役報酬や内部監査に要する費用というものが、「とてももったいない」と感じているとのお話は、うーーん、たしかにそのように感じられるのも無理ないかな……と、素直に受け止めた次第であります(いや、ホントは受け止めてはいけないのですが……)。

ところで私自身、新規上場準備企業にとって、どれほどのクライシスマネジメントが必要なのか、とても気になりましたのが「上場直前の投書」であります。今日の某会計士さんのお話では、この投書に対する新規上場会社の対応というのは、かなり重大な課題になることが多いようであります。もちろん投書によって過去の不祥事が明るみとなり、上場が困難になる、というリスクはかなり少ないのでありますが、その調査に費用や時間を要し、また上場機運が高まった社内の雰囲気に水を差すことになることは間違いないようであります。さすがに上場企業になるまでは、(新規上場に手が届くほど業績が向上していたがゆえに)いろいろと「脛に傷を持つ」会社も多いようで、こればっかりは新規上場によって「帳消し」にはならないのであります。

上場を妨害する意図で「投書爆弾」を投げ込む方々は、退職役員・従業員、同業他社、在職中の従業員、取引先(下請先、得意先、仕入先)等のようで、投書先は主幹事証券会社、監査法人、証券取引所上場審査部、マスコミ、(大阪であれば)近畿財務局企業財務課あたりが中心だそうであります。実際に「やっかい」と感じるのは、内部事情に精通していなければわからないような個別具体的事情が記載されていることが多いために、かなりの信ぴょう性が感じられ、そのために慎重な対応が要求されるケースが多くなるからだそうであります。「慎重の上にも慎重になる」とか。こういったケースでは、単純に不正事実を調査するだけでなく、事実が確認できた段階で社内処分等を厳格に行い、二度と同様のことが発生しないよう内部統制システムを改めて構築する、といった「自浄作用」が必要となるようです。とりわけ営業ができて単身赴任で駆け回っている幹部職員の「不適切な交際」問題は要注意とのこと。「不適切交際」そのものよりも、そこから派生する金銭問題やセクハラ・パワハラ問題、利益相反問題などが投書の対象になるのかもしれません。

某会計士さんのお話では、上場すれば、やはり「上場企業としての良い雰囲気が形成される」とのことでした。ただ、それも新規上場を「生まれ変わるひとつの良いきっかけ」と前向きにとらえる経営者の方であれば為し得るものかもしれません。しかし、上場後も「俺の会社だけども、上場するためには一時我慢するしかないな」と形作りだけに勤しんでおられる経営者の方であれば、良い企業風土も形成されてこないように思われます(時々、開示書類には記載されていても、実質的な内部監査部門が存在していない、といった噂を聞く上場会社さんもあるようですし……)。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年10月25日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。