日銀が予想通り2ヶ月連続の金融緩和を発表しました。その内容は政府、財務省が強力なる関与を重ね、「更なる金融緩和へ」のプレッシャーを出していましたが、事前予想の10兆円から20兆円規模に対して11兆円という奇妙な額になったことから市場は失望の円高、株安を起こしています。
さて、今回、日銀の苦肉の策と思われるのが、新貸出制度と称するものです。ご承知のとおり、デフレから脱却し、1%のインフレを2014年までに達成することが日銀の必達目標となっていますが、金融緩和をいくらしてもそのお金が企業に回らず、メガバンクはせっせと国債売買に励み、リスクが少ないビジネスで薄利を上げています。
そこで実際に企業に資金が回るようにする仕組みがこの新貸出制度であり、0.1%という低利で日銀が金融機関に貸し出す仕組みという触れ込みであります。ただ、実際には基準日から貸し出しが増えた分だけということですからこの制約からして効果はなさそうな気がいたします。
以前にも書きましたが悪名高き亀井静香氏のモラトリアム法案が2013年3月で失効いたします。この法案は「一時的な」金融危機による衝撃を先送りするため時限立法として施行させたもので中小企業には恩恵があるとされています。しかし、実態としては不良債権の先送りともいわれ、まじめな債務者と不真面目な債務者がどの程度の割合で存在するのか、あるいは適正な審査をすればどれぐらいまともな返済率、つまり3年間で「更正」できた会社があるのか不透明であるのです。
政府の目論見としては3年間で経済が危機状態から通常に戻るというのが前提だったと思いますが、国内の経済のピクチャーを見れば大きくは変わっていないように思えます。よって、金融機関としては3月の法案失効のあと処理に戦々恐々としているとすれば今、中小への貸し出しどころではないというのがストーリーではないかと思います。
インフレにならない原因はかつて、このブログでも何度か取り上げさせていただきましたが新たなる理由として資本の集中化が考えられます。弱小企業が資本の大きな成功している会社に淘汰されるいわゆる弱肉強食がビジネスの世界では激しく進む中、個人の起業マインドは落ちこまざるを得ない状況にあると思います。
韓国では不況になると屋台が増えるという話があります。リストラされて食いつなぐために手っ取り早い自営業として屋台のビジネスをやるということです。日本ではその屋台起業家すら現れない状況であきらめの境地でしぶしぶ低賃金労働を受け入れるという感じに見えます。
産業内の競争が進む過程において価格競争は当然ありえるわけでギリギリの価格を出すために取引先の仕入れ価格から人件費まで最大限絞り込むそのやり方が続く限りデフレは止まりません。逆説的にいえば日銀が金融緩和をし、企業向けの資金を供与しようとすればするほど強者の理論で資本の集中化が促進され、結果として競争激化でデフレは止まらないという奇妙なことが起きているとも言えなくはないかもしれません。
デフレは競争が完全に淘汰され、寡占か複占、独占まで進まない限り止まりにくく、あとは産業が価格競争から品質競争、付加価値競争に移行できるかどうか、そしてその付加価値がデフレに慣れきった国内消費者対象ではなく海外市場に売り込めるかが対策のひとつに成りやしないかと思っています。
という意味では日銀の今回の苦肉の策はなんとなくはずしているような感があります。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年10月31日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。