雇用統計はどう影響するか、米国大統領選挙 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

大統領選挙の行方に大きく影響するとされた10月のアメリカ雇用統計。その前日のADPの明るい雇用情勢の数字を受けてよい数字が出ると期待しておりましたが予想通りネット17万1000人増と市場では非常に好意的に受け止められました。失業率は0.1ベーシスポイント悪化して7.9%となっていますが、これはテクニカルな部分がありますので余り深く受け止める必要はないと思います。


さて、この結果をどう捉えるかです。まず、この数字が恣意でないという前提に立てば雇用情勢は順調に回復しているようにも思えます。が、大手企業を中心にリストラが計画されている状況を鑑みれば強気、弱気双方の声が聞こえてきます。

ところでアメリカには現在失業者が1200万人おりますが、求人側のほうは360万職不足しています。仮にこの求人側の不足を半分埋めれば失業率は6.5%まで下がるとされています。では何故このようなギャップが生じているのでしょうか?

このブログで以前紹介したので覚えていらっしゃる方もいらっしゃると思いますが、日本で雇用のミスマッチがおきています。つまり求人側と求職側で希望が違っている状態が生じ、結果として失業率が高い状態を作っています。私はアメリカでまさにこのミスマッチが起きていると見ています。

まず、労働参加率が低下してきています。今回の雇用統計では今年5月以来の改善を見せ63.8となっているものの長期トレンドでは参加率の低下が見られます。これはブーマーのアーリーリタイアメントを金融危機によるリストラが後押ししたと考えるのがナチュラルかと思います。更にミスマッチが生じてしまったのはグローバリゼーションとボーダーレス化が進む中、ビジネスの新陳代謝が急速に進んでいることで企業側が欲しい人と求職者の間に差異が生じていると考えるのが妥当ではないでしょうか?

つまり、アメリカの繁栄を支えてきた今の40代から上の層は極論すると「製造業とショッピングモール世代」であり、オールドスタイルの経済サイクルで仕事や生活をエンジョイしていました。ところがいまやタブレットコンピューターとEコマースの世界です。当然ながら必要とされる人材は変わってくるわけです。ところがある程度年齢が上になると新しい世界への挑戦がしにくくなるのは事実です。これがミスマッチの最大の原因があると見ています。

では、今月の労働参加率が何故上がったか、といえば住宅業界が底打ちをして緩やかながら回復基調にあることで建築業界などへの復帰が影響していると見ています。ですからある意味テクニカルな理由と言うことになります。

さて、この状況で大統領選にいよいよ突入するわけですが、下馬評はオバマさんに順風。私もそう捉えるのが妥当だと思います。しかも予想に反して案外、差がつくような気がしております。そうなればロムニー氏はさまざまな形で反撃してくるはずです。私が雇用統計の恣意性について気にしているのはこのこともあります。

仮にロムニー氏が当選すればバーナンキ議長率いるFRBの方針にケチをつけることが目に見えており、長期的金融緩和への疑問符から株安、金安、ドル高となることが想定されます。ですが、今の雇用はアメリカ回帰という堅実な政策が有効にワークしていると見るべきで財政の崖を控える中、ドラスティックな政策変更はアメリカ国民を惑わせるだけでなくやや平静になっている世界経済に爆弾をおとすようなショックが起こりえないとも限りません。

いずれにせよ7日の水曜日には新しいリーダーが判明することになります。これから数日は市場の噂から世論調査まで入り乱れた激しい予想合戦が繰り広げられることでしょう。ですが、その間に中国でもひそかに共産党大会が進んでいることも忘れてはいけませんね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年11月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。