11月1日に行われたNHK会長会見と前後するように、デジタルテレビ放送の送信所を東京タワーからスカイツリーに移行する作業が難航しているとの報道が相次いでいる。会長会見に同席した経営企画局の幹部は次のように話したそうだ。
民放キー局5社と協力して、丁寧な対策を実施する。コンピューターのシミュレーションでは把握できない、個々の世帯の障害に対して、アンテナ調整などの受信対策を実施していく。世帯ごとの障害発生の有無については、実際にスカイツリーから発射する電波を受信してご確認いただく方法しかない。深夜に試験電波を発射し、障害のご連絡をいただいた世帯などに対策を講じる予定だ。現在、早朝や昼間の試験電波発射を含め、民放各社と効果的な対策について検討している。
問題は障害を生じる世帯数なのだが、読売新聞は「関東一円の受信障害は約16万件に上ると試算された」と報道している。これは驚くべき数だ。デジタル放送が受信できない世帯に対して暫定的に衛星を用いた放送が提供されているが、総務省資料によると、対象世帯数は全国合計で16.1万世帯に過ぎない。これと同じ数の難視聴世帯が、送信所を移すだけで生まれるのだ。
2010年9月27日にNHKと民放キー局5社は、東京タワーを災害時などの予備電波塔として引き続き利用するとの契約を、東京タワーの運営会社「日本電波塔」と結んでいる。しかし、予備塔として役立たないことも、この数日で分かった。スカイツリーへの移行でアンテナ調整などが必要になるのであれば、万一の際、予備塔に戻してもアンテナ調整などが必要に決まっているからだ。
スカイツリーから送信しなくても困っている世帯の数はわずかだ。先の総務省資料では、最も多い千葉県でも31375世帯に過ぎない。新たに16万世帯に迷惑をかけるのは無駄なことだ。僕が5月の記事で主張したとおり、スカイツリーは観光塔に徹するべきだ。
山田肇 -東洋大学経済学部-