2012年11月13日、一年間の産休から復帰した歌手の倖田來未さんのバースデーライブが武道館で行われ、招待いただいたので観覧してきました。出産後4ヶ月ほどしかたっていないにも関わらず、そのパフォーマンスは圧巻でした。特に感心したのは彼女のMCのうまさで、会場の笑いや歓声を引き出すナチュラルな話術や表情は素晴らしかった。
僕はいま、日本のコンテンツを世界に向けて発信するためのプラットフォームを開発しているため、倖田來未さんのライブを楽しみながらも、彼女がもし世界のDivaとしてLady Gagaやリアーナなどと肩を並べて活躍するとすれば、どうすることが一番いいのかを考えていました。歌は日本語中心でもいいと思うし、発音を徹底的に強制しながら英語の歌詞をつけていけば、それはそれでいけるでしょう。ダンスパフォーマンスは一級品だし。しかし、MCのほうはだいぶ英語をマスターした上で、ニュアンスを切り替えていかなければならないかもしれません。
そんなことを考えていると、次第に思索は徐々に言語や文化の違いという壁を乗り越えるサービスとはなんだろう、という想いに変わってきていました。
Avex系の日本の歌姫には、他に浜崎あゆみさんや安室奈美恵さんがいますが、浜崎さんのライブも倖田さん同様に、歌唱+ダンス+MCだそうで、逆に安室奈美恵さんはいっさいMCなしで全く喋らないそうです。となれば、安室さんならば、現時点のスタイルを全く変えずに海外での公演をやりきれるのかもしれません。
現在、日本のネットビジネス業界はこぞってアジア諸国に進出しようと動いていて、特にシンガポール、インドネシア、ベトナム、台湾などに拠点を設ける動きがよくみられます。そのほとんどはソーシャルゲーム系ですが、輸出するのは携帯電話(スマートフォン)上で行うカードゲームというジャパニーズスタイルのゲームを通じて課金アイテムを販売する、というビジネスモデルであり、実際に日本で作ったゲームを輸出するというより、海外拠点でゲームを作るための”工場”設立という感じです。つまり、日本のお家芸であった製造業の海外進出スタイルに似ています。ただ、シャープやパナソニックの落日をみるように、製造業が陥った罠は、商品の製造プロトコルや品質管理のノウハウそのものを海外工場側に結果的に”盗まれて”、製品コンセプトをコピーされた上でより安い金額で商品化されてしまい、本家の商品が売れなくなる、という悲哀でした。同じような罠に、現在破竹の勢いのソーシャルゲーム業界が陥る可能性は相当に高い、と思います。
しかし、アジア諸国には英語を含む多言語でビジネスを行う素地をもった人材が多く、しかもコスト的には日本人より安いので、どうしても”ソフトウェア工場”を海外拠点に置きたくなるのはムリない話なのです。僕がソーシャルゲーム企業を経営していても、その選択をとらざるを得ないでしょう。
先述の音楽業界、エンターテイメント業界で例えると、レーベルやプロダクションが海外でビジネスするために、海外のタレントと契約してビジネスをすることと、日本人のタレントに(語学やパフォーマンススタイルのチューニングなどの)グローバル対応を行ったうえで海外進出をさせることの二つの選択がある。もちろんどっちもやったっていいわけですが、僕の私見では、後者のほうが国益には適しています。
これは僕の持論ですが、日本は輸出立国であり、モノ作りは国内でやって、それを海外に輸出することで1億人もの人口(しかも、もはや平均年齢40歳という中年国家)が豊かな生活を送ることができるようにするしかない。言語や文化の壁などなかったからこそ勝てたといえる家電において、もはや日本は韓国や中国に圧倒されかけており、もはや自動車産業が世界に通じなくなったら先行きはかなり暗い。部品産業や医療系の特殊技術など、日本がだんトツな分野もまだまだありますが、市場規模としては小さい。やはり、常に皆の視線に入るような製品でないと大きな市場にはならないのです。
アニメやゲームはいまのところ有望な分野ですが、海外に製造拠点を移してしまうことによるリスクは非常に大きいと僕は危惧しています。ファッションやワインなどのお家芸的輸出産業をうまくブランド化しているフランスは、そのブランド価値を低下させることがないような国策を続けているし、K-POPを輸出産業に仕上げた韓国も国家を上げてその地位を維持しようと必死です。
日本はとみれば、そうした実践的な政策とはかけ離れたところで年末の忙しいおりの総選挙です。日本は国内で作った製品を輸出してなんぼの国だと、僕は本心から思うのですが、そういうシンプルな戦略を継続して行ってくれる政治家が自分が投票できる選挙区にいればよいのですが・・・。
– 小川浩( @ogawakazuhiro )