「脱原発」を卒業しよう

池田 信夫


「卒原発」を旗印として滋賀県の嘉田知事を代表とする「日本未来の党」が結成され、そこに「国民の生活が第一」や「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」などが合流し、民主・自民に次ぐ「第3極」が一夜にしてできた。しかし今週のシンポジウム「エネルギー政策・新政権への提言」でも議論したように、原発というsingle issueで政治を論じるのはナンセンスだ。それは経済政策の中のエネルギー政策の中の1割ぐらいの問題にすぎない。


きのうの第2部でも出演者全員が同意したように、日本でこれから原発を新設することは不可能だし、経済的でもない。「卒原発」を政治が論じるまでもなく、原発は減ってゆくのだ。問題はそれでいいのかということである。

原発の減った分は、化石燃料で補うしかない。シェールガスなどのおかげで、火力の直接コストは原子力より安くなると見込まれるが、「CO2を2020年までに1990年比-25%に削減する」という国際公約は、絶対に達成できない(これは政府も認めた)。火力による大気汚染や採掘事故で、毎年数万人が死亡している。もちろん原発にもリスクはあるが、それと火力のリスクのどっちが大きいかは自明ではない。

つまり直接コストでみると原発の時代は終わったのだが、環境への影響を含めた社会的コストでみると、火力に依存するリスクも大きいのだ。新政権では「脱原発」などという無意味な問題を卒業し、エネルギーの社会的コストを最小化するにはどういうポートフォリオがいいのか、という経済問題として冷静に考えてはどうだろうか。